Kanon・AIRリレー小説第6集
せっかくラブひなっぽい展開にできるようなパスを出したのにキャンセルされた(笑)
そしてクライマックスは突然に。
というワケで今までKの攻撃の前に防御に回っていた俺の反撃開始。
2人の持てる最大限の力を出し切った渾身のクライマックスです。
つーか、頑張れば頑張るほどダメになってくような…(汗)
第13話 兆し
聖さんに、テレビの音量を下げるように言ってから、
「香里の電話番号は・・・」
思い出しながら、ボタンを押してゆく・・・
トゥルルルルル・・・
・・・
「もしもし・・・」
香里の声だ・・・当然か。
「祐一だけど・・・」
「ねえ、そっちに名雪いない?」
「はあ?名雪はお前達と一緒のはずだろ?」
「それが・・・急にいなくなっちゃったのよ・・・」
「・・・いなくなった!?」
「うん・・・なんか急に『行かなくちゃ』って言って・・・追いかけたんだけど、名雪、陸上やってるでしょ?速くて追いつけなくて、それで・・・」
「見失ったってわけか・・・」
「ごめん・・・」
「いや・・・しょうがないだろう・・・で、今どこにいるんだ?」
「公園の近く」
「わかった・・・手分けして探そう。それにしても、何で電話してこなかったんだ?」
「何度も電話したけど、誰も出ないんだもの」
確かに、テレビの音量が大きかった・・・それでは、電話の音など聞こえないだろう。
台所の惨状から推測すると・・・おそらく、その時高らかな悲鳴が飛び交っていたのだろう。
それで、テレビの音量を大きくした・・・
「とにかく、一時間ごとに電話してくれ」
「わかった」
慌てて電話を切り、みんなに名雪のことを告げる。
秋子さんは電話係として家に残り、その他のメンバーで名雪を探すことになった。
俺は、舞の携帯に電話をし、みんなで名雪を探すように言った。
時計の針は、5時30分をまわっていた。
一体どこにいるのだろうか・・・
俺は、商店街の電話ボックスから、2度目の連絡をした。
つまり、現在7時30分をまわっているということである。
他のメンバーもまだ名雪を見つけていないということだった。
「どこだよ・・・名雪・・・」
探そうにも、何も手がかりがないのだ。
ないこともないのだが・・・『行かなくちゃ』だけでは・・・
一体どこに行かなくちゃいけないというのだろうか。
俺は天を仰いで溜息をついた。
空には無数の輝く星々。
他に探すところは・・・
・・・・・・・・・
まさか・・・そんなことは・・・
俺は慌てて駆け出した。
着いた場所・・・それは、数時間前に戦場だった場所。
ものみの丘。
今は、誰も寄せ付けないような、静寂の世界がそこにあった。
名雪はその中央で倒れていた。
「名雪!!!」
慌てて駆け寄り、抱き起こす。
「名雪!起きろ!名雪!」
揺り動かし、軽く頬を叩くと、名雪は目を覚ました。
「あれ?祐一・・・どうしたの?」
「どうしたの?じゃないだろ!みんな心配してるんだぞ!お前こそ何でこんなところにいるんだ?」
「う〜ん・・・急にここに行かなくちゃって思って・・・それで、ここに来たら急に眠くなって・・・」
「はあ〜・・・とにかく、帰るぞ」
「うん」
俺は、しばらく歩いたところで足を止めた。
足音が、俺の分だけだったからだ。
振り返ると、名雪はまだ地面に座っていた。
「何やってるんだ?早く帰るぞ」
「・・・それが・・・体に力が入らなくて・・・」
「・・・しょうがないな・・・」
名雪を背負い、水瀬家へと歩みを進めた。
途中、商店街の電話ボックスから、名雪が見つかったことを知らせた。
家に着くと、時間は9時すぎだった。
パーティーは中止となった。
今からでも十分できるのだが・・・
「心配ない。少し、衰弱してはいるがな。一晩寝れば、大丈夫だろう」
診察を終えて、聖さんの言った言葉が中止を決定付けた。
名雪は残念がっていたが、日曜日のあゆの水瀬家歓迎パーティーと一緒にやることになった。
それで、今日は解散となった。
ただ、舞だけが体の調子が悪いらしく、泊まっていくことになった。
俺は、ベッドに寝転び、天井を眺めていた。
名雪が、ものみの丘に行った理由・・・
『行かなくちゃ』・・・か・・・
何でそう思ったのだろうか。
何かを感知したのだろうか。
俺の危険を?・・・呪いを?・・・それとも・・・
ん?待てよ・・・名雪にそんな力があるわけないか・・・
「そうだよな・・・」
天井に向けて笑うと、次第に瞼が重くなってきた。
そのまま、眠りに身を任せることにした。
第14話 空への決意
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
目覚めは最悪だった。
なんせ、体が動かないのである。
・・・何故だ?
どう足掻いても、ピクリとも動かない。
金縛りだろうか・・・
いや、違う・・・
何故かそう思えた。
暫く、見なれた天井を眺めていると・・・
ジリリリリリ・・・
けたたましく、目覚し時計が鳴り響いた。
うるさい・・・うるさすぎる・・・
確か、目覚し時計はセットしなかったはず・・・
だとすれば・・・真琴だ。
ヤツしかいない。
「・・・うるさい」
とりあえず、喋ることはできる。
1.助けを呼ぶ
2.もう一度寝る
俺は2番を選ぶことにした。
1番を選んだところで、無駄だと思ったからである。
目覚し時計の音は、一つではない。
ちなみに、俺の部屋に目覚し時計は一つしかない。
つまり、名雪の部屋で無数の目覚し時計が鳴っているということである。
大声を出したところで、誰にも聞こえやしないな・・・これは・・・
もう一度寝て、次に起きた時には、体もすっかり動くようになっていることだろう。
そう思い、再び瞼を閉じた。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
起きて目覚し時計を見ると、針は10時を少し回ったところを指していた。
体は動く。
「よかった、よかった・・・」
・・・?
「・・・やっぱり、よくない・・・」
何故だ?右腕だけが動かない・・・
部分的な金縛りだろうか・・・そんなのあるのか?
「やれやれ・・・」
原因はよくわからない。
いや、おそらく昨夜の出来事が関係しているのだろう。
そうとしか思えなかった。
私服に着替えて、一階へと向かう。
リビングでは往人が寝ていた。
どこか苦しげな表情をしている。悪い夢でも見ているのだろうか。
今日は、何もせずに食卓についた。
キッチンには、エプロン姿の名雪がいた。
「おはよう祐一」
「おはよう・・・体は大丈夫か?」
「うん。もう大丈夫」
「あれ?秋子さんは?」
「お母さんなら出かけてるよ。朝食、ご飯にする?パンにする?」
「風呂にする」
「・・・祐一、今からお風呂に入るの?」
「・・・いや・・・冗談だ・・・パンにする」
「わかった」
そう言うと、名雪はパンを焼きにかかる。
『ご飯にする?それとも、お風呂にする?』と訊いて欲しかった・・・
ちょっと想像してみることにする・・・
ガチャッ・・・
「ただいま〜」
「おかえりなさい、祐一。」
エプロン姿の名雪がパタパタと出迎えに来た。
鞄を手渡すと、それを胸に抱きながら訊いてきた。
「ご飯にする?それとも、お風呂にする?」
「パンにする」
「・・・今日の晩御飯はパンじゃないよ〜」
「じゃあ、トーストにする」
「・・・いっしょだよ〜」
・・・・・・・・・つまんねー
でも、名雪のエプロン姿はよかった・・・
って、今もエプロン姿だった。
現実の世界に戻ると、ちょうど名雪がコーヒーを煎れて運んで来るところだった。
「はい、祐一」
「トーストにする」
「え?今、焼いてるところだよ」
「・・・そ、そうか・・・」
ダメだ・・・今日は頭が冴えない・・・
煎れたてのコーヒーを飲んでいると、焼き立てのトーストが運ばれてきた。
「はい、祐一」
「ありがとう。なあ、名雪・・・」
「ん?何?」
「食べさせてくれ」
「・・・・・・・・・」
「わっ、ちょっと待て、名雪!」
名雪は部屋から出ていこうとしていた。
「自分で食べれるでしょ?」
「いや・・・実は・・・腕が動かないんだ」
「さっきコーヒー飲んでた」
「いや・・・左腕は動くんだけど、右腕は動かないんだ。」
「じゃあ、左手で食べれば?」
「トーストは右じゃなきゃダメなんだ」
「何よそれ・・・」
名雪は呆れていた。そりゃ、そうか。
「う〜ん・・・わかったよ」
マジ☆アン?
冗談だったのだが・・・
恥ずかしながらも、お願いすることにした。
「はい、祐一。あ〜ん・・・」
「あ、あ〜ん・・・」
ハグッ
もぐもぐ・・・
「おいしい?」
「ん?ああ、おいしい・・・」
こういう時に限って・・・ホント、勘弁してほしい・・・
「プクククッ・・・祐一君?おいしい?」
「ぐはっ・・・往人・・・」
穴があったら入りたい。
顔が急激に熱くなってゆくのが、自分自身はっきりとわかる。
「おはよう。往人さん」
「ああ、おはよう。名雪〜朝から新婚さんごっこか?」
「ち、違うよ!そんなんじゃないよ!」
「ほほ〜う・・・」
顔を赤くして慌てる名雪に、それを見てニヤニヤする往人。
「往人さん、誤解してるよ!」
「どう誤解してるんだ?」
「そ、それは・・・ゆ、祐一が、右腕が動かないから食べさせてくれって言って・・・それで、食べさせてあげてただけで・・・左手で食べれば?って言ったんだけど・・・あの・・・」
「・・・右腕が?」
往人の顔が急に曇った。
「ホントか?祐一」
「ああ、ホントだ」
鋭い視線が俺を見据えていた。
暫く、考え込んだ後・・・
「おい、祐一。ちょっとこい」
「はあ?どこに?」
「いいからこい!!!」
往人の叫びに、場の空気が緊迫へと一変した。
何をそんなに怒っているのだろうか・・・
その理由はわかっていた。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
往人の後ろを黙ってついて行く。
ついた場所は・・・
二階の一室。
暫定的にあてがわれた舞の部屋だった。
往人はノックもせずに、ドアをいきなり開けた。
ガチャッ・・・
太陽の温かな斜光に照らされながら、舞が窓際で空の高みを眺めていた。
そこに、一体何があるのだろうか・・・空の少女・・・そんな少女がいるのだろうか・・・
そんなことを考えていると、往人が口を開いた。
「体は大丈夫か?」
「・・・大丈夫」
その場の時が、止まってしまったかのような静寂。
往人と舞は、互いに暫くみつめあっていた。
冗談を言ってみようか・・・そんなことを思ったが、その場の空気がそうはさせてくれない。
口を開いたのは舞だった。
「あなたは、一体何をしているの?・・・あなたでは、彼女を救えない」
「・・・俺は・・・」
往人は俯いた。先ほどまでの威勢はどこへ行ってしまったのだろうか。
まるで感じられない。
「・・・行かなきゃ」
舞はその場を後にしようとドアの方へ向かう。
すれ違い様、俺は舞を強引に引き止めた。
妙なものが目に映ったからだ。
「・・・祐一、痛い」
「ちょっと待て」
名雪に舞の身体検査をするように頼み、往人と共に部屋の外で待つこと数分・・・
「入っていいよ」
名雪の声に俺達は再び部屋の中に入る。
名雪は悲しい表情をしていた。
そして・・・
「・・・祐一・・・舞さんの体中に、痣のようなものがいっぱいあったよ・・・」
「そうか・・・なあ、舞・・・それって、『呪い』の影響なんだろ?」
「・・・・・・・・・」
舞は何も言わない。それが答えだった。
「俺は、右腕が動かない」
「だから、あの時『逃げて』って言ったのに・・・」
「悪い・・・でも、ほっとけなかったからな・・・一緒に戦ったことのある仲だろ?」
「・・・でも、祐一は弱い」
「ぐはっ・・・」
確かに、俺は舞と比べたら非力だ。だからといって、ここで引き下がるわけにはいかない。
「俺は、お前と一緒に戦うぜ」
「・・・そう言うと思った」
俺と舞は微笑みあった。
「お前等は何もわかってない・・・」
往人の振るえた声に、舞は凛として答えた。
「あなたは、あなたのやるべきことがあるでしょ?」
「俺のやるべきこと・・・俺のやるべきことは、空の少女を救うことだ」
「あなたでは救えない」
「何故だ?俺に言わせれば、お前等こそ空の少女を救うことなんて出来ないぜ」
「そんなことない・・・ただ、あなたでは無理」
「どうしてだ!」
「空の少女は・・・あなたの求める少女じゃないから」
「なっ・・・」
往人は、目を丸くして舞を見つめていた。
どういうことだ?・・・つまり、空の少女は一人ではないということだろうか・・・
「な、なあ・・・舞の救おうとしている少女って誰なんだよ・・・」
恐る恐る訊いてみた。
「・・・秋子さん・・・」
俺達は驚きを隠せなかった。
舞の救おうとしている人物が秋子さん・・・って、
「ちょっと待て。何で秋子さんなんだ?秋子さんは何歳か知らないけど、『少女』と呼ぶ年齢じゃないだろ?それに、『空』って・・・」
「でも、空で泣いているのは、確かに秋子さん」
「秋子さんは地上にいるだろ?」
「『少女』の秋子さんは空にいる」
「それって・・・秋子さんの過去に原因があるってことか?」
「そうじゃない・・・」
「じゃあ、何が原因なんだ?」
「・・・言っていいの?」
「ああ・・・」
本当に聞いてしまっていいのだろうか・・・なぜか、いやな予感がした。
舞の口から紡がれた言葉、それは・・・
「・・・往人・・・あなたのせい・・・」
「・・・俺のせい?俺が何かしたってのか?」
「あなたが・・・ここに来たことが・・・」
「・・・・・・・・・」
「あなたは昔、秋子さんと会っているのよ」
「そんな記憶はないぞ」
「あなたが覚えていないだけ・・・幼い頃だったから」
「何でお前がそんなこと知ってるんだ?」
「『呪い』に触れてわかった。詳しい事情は、秋子さんから訊くといいわ・・・あなたと同じ、法術を使う存在だから」
第13羽 過去との対峙(前編)
どうにも舞の言うことが理解できない。
俺が救おうとしている少女…。
そして舞が救おうとしている少女…。
最初は同じ少女だと思った。
だが…それは違った…。
舞が救おうとしているのは秋子さん…。
そしてその原因である俺は過去に一度彼女に会っている…?
……………。
どうしても思い出せない…。
そもそもそれが本当だとしてもアイツがそれを知っているのはおかしな話だ。
なぜなら俺と舞は間違いなく初対面だからだ。
いくら『呪い』の影響だとはいっても…。
そもそもその『呪い』というのも曖昧な表現だ。
しかし、アイツが出鱈目を言うのもまたおかしな話である。
そんな意味があるとは考えられない。
いや、それ以前にアイツはそんな事をするタイプの人間ではない。
『詳しい事情は、秋子さんから訊くといいわ・・・あなたと同じ、法術を使う存在だから』
舞はそう言った。
ならば、会えばいい。
会って話を聞けばいいのだ。
秋子さんを探し始めてもうどれくらい経ったのだろうか。
辺りはすっかり夕暮れに染まっている。
というか、俺が商店街と駅前と公園ぐらいしか回ってないのが原因なんだろうな。
秋子さんが俺の知っているこの3箇所以外にいるのなら会えないのも当然である。
……………。
…いや、もう一つ残っている。
あの丘…。
通称、ものみの丘と言われる場所…。
俺はうろ覚えの記憶を頼りに、その場所を目指した。
俺がその場所に立つと同時に風が凪いでいった。
ここは間違いなくものみの丘と呼ばれる場所だ。
昨日舞が何かと闘っていた場所で、俺がなんとなく辿り着いた場所のはずだった。
『うろ覚えの記憶』はその事だと思っていた。
…だがそれは違うのだろう。
「俺はかつてこの場所に来た事がある…」
確証はないが…間違いない。
ただ、それが何時だったのか、何の目的があってのことだったのか、全てが不鮮明だ。
しかしそれは、ピースが散らばっていて何の形も出来上がってないというだけであって、俺の中で明らかに何かを形作っている。
「まあ、それは今どうでもいいとして、だ」
俺は彼女を見据える。
「すまないが…何も覚えてないんでな。色々と話してもらえるとありがたいんだが」
俺の言葉に彼女―――秋子さんはゆっくりと口を開いた。
「本当に意外でしたよ。まさかあの意志を継ぐ人が現れるなんて思いもしなかったから」
「あの意志…?」
「もう、往人さんは覚えてないでしょうね…。あまりにも長く、厳しい時間が経ってしまいましたから」
「……………」
あの日…。
私は今までそうしてきたように旅を続けていました。
空にいる少女を救う旅…。
長く、厳しい旅です。
そんなある日、私はある母子に出会いました。
その母子はとてつもなく長い年月を旅してきた私達の一族から派生した、同じ方術師の一族でした。
「もうすでに分かっていると思いますが…」
「ああ」
舞と会って分かった。
「俺達の家系はかなり分化していったんだな」
俺達一族が旅してきた時間は膨大だ。
中には自分の幸福を見つけて、本来の目的から逸れた人間もいる。
それでも空の少女を救うために、意志だけは残していったのだろう。
法術と少女の話を後世に残して。
長い年月が経てばどんな家系であれ分化していくのは道理だ。
それは法術師の家系であっても同じだろう。
一口に法術と言っても、その能力は様々だ。
俺は人形をはじめ、物に手を触れなくても動かすことのできる力。
そして舞は手をかざすだけで俺の傷を癒した。
あの力も間違いなく法術だ。
ならば、これは法術師の家系が分化していったことを決定付ける事実となる。
私は彼女達と少しの間生活をともにしました。
そして分かったのですが、彼女―――往人さんの母親の力は、とてつもなく強いものでした。
私の法術など足元にも及ばないくらいに。
…先程の『私達の一族から派生した』と言うのは正しい表現ではありません。
私のほうが派生した一族の末裔だったのです。
彼女はそれほどの…つまり直流であると言い切れるほどの強力な力の持ち主だったのです。
最も、分化しすぎた一族の中から直流を探すのはもはや不可能でしょうけれども。
それでもその法術の強さだけで十分証拠になるでしょう。
反対に、彼女の子―――往人さん、あなた自身です。
あなたの力はまるで弱いものでした。
いいえ…。弱いと言うと語弊があるかもしれません。
正確に言えば…『資質がない』と言っても良かったと思います。
それは私達一族のなかでも異端です。
なぜなら、法術は空の少女を救う目的を持つ一族の者には必ずある資質だから…。
第14羽 過去との対峙(後編)
「では往人さん…。何故あなたはあるはずの力を持っていなかったのでしょうか?」
「………分からないな…」
「そうでしょうね」
お決まりの頬に手を持っていく仕種で答える。
「往人さん…。あなたには自分の知らないもう一つの資質があるんですよ。心当たりがありませんか?」
「もうひとつの…資質?」
「はい。……舞さん、ちょっといいですか?」
秋子さんがそう言うと、木の陰から舞が現れた。
そして同時に俺に向かって剣を振り下ろす!
「……!!」
俺は瞬時にバックステップでそれをかわす。
「…なんのつもりだ?」
「それが往人さんの資質なんですよ?」
「…………」
…どういうことだ?
「こういうこと…」
舞が俺に1本の刀を渡す。
それから少し後ずさると、再び俺への攻撃を開始する。
「せいっ!」
「くっ!」
舞の横薙ぎの一撃を刀を縦にして受け止める。
そのまま舞との一進一退の攻防へと流れ込む。
しかし何故俺はこんなにも動けるんだ?
確かに動体視力は良いほうだが…。
「…一体何がしたいんだよ!」
俺が放った一撃は簡単に弾き返される。
「往人さん…。私達一族の旅は1人の剣士と方術師の女性から始まったのだそうです」
秋子さんが訥々と話を紡いでいく。
俺は舞との攻防を続けながらその話を聞く。
といっても攻撃をかわすのに精一杯なのだが…。
その剣士は方術は使えなかったそうです。
けれども、その方術師との間に生まれた子はきちんと方術を授かりました。
以来、ずっと方術は一族に受け継がれてきました。
このどこまでも広い空の下で果てしなく続いてきた…長い…とてつもなく長い時の中で…。
方術が使えなかったのは二人だけ…。
1人は最初の剣士…。
そしてもう1人は…往人さん、あなた。
「…俺がそいつの生まれ変わりだとでも言うのか?」
言いながらの俺の攻撃を舞は後ろに飛んでかわし、そのまま距離をおいた。
「はい。初めて刀を持った割に舞さんと互角に戦えたのが証拠です」
「…くだらねぇな。俺は俺だ」
「そうです。例え彼の生まれ変わりだとしても往人さんは往人さんです」
「ならこの話はこれで終わりだ」
「いいえ、終わりません。この話には続きがあるんですよ」
「…………」
「彼の剣はもともと自分が生きていく為の物であって、他人のために振るわれることはありませんでした」
「…………」
「…悲しい剣ですよね…。往人さん。あなたもそうじゃないんですか?」
「…それは…」
確かに秋子さんの言うとおりだ。
俺はこの人形を動かす力を自分が生きていくためにしか使っていない。
「彼は、剣の使い方を変えました。空の少女を救うために。他の人の為に使うようになったのです。結局彼は彼女を救うことは出来ませんでしたが、その意志は今も受け継がれています。私達はもう彼女に手が届くところまで来ているんです。あとは…あな…たが気…付くだけ…で…す」
不意に秋子さんの声が途切れがちになり、同時にその場に崩れるように倒れる。
「往人…!急いでこの場所から離れないと…」
舞はすばやく秋子さんを抱き起こすと俺にそう促し、走り出した。
「おい、どうしたんだよ!」
「秋子さんの結界術が解けた…。これ以上はムリ」
「結界術?一体どういう事だ?」
「話は後…。とりあえずここから離れないと」
「…分かったよ」
俺と舞は秋子さんを連れ、そのまま丘を後にした。
水瀬家に到着し、秋子さんを祐一と名雪に任せ、俺と舞はリビングに入る。
「もう俺には何がなんだか分からない。あの場所には何があるんだ?」
「…法術そのもの…」
「…は?」
舞の話をまとめるとこうだ。
俺はもともと法術の資質を持ち合わせていなかった。
かわりにその剣士の力とも言える剣の資質を持っていた。
しかし、流れた時間の中でもはや剣はその少女を救うて手立てにはなり得なかった。
そのために俺は法術を扱えるようになる必要があったと言う。
そして秋子さんは法術の資質を他人に埋め込む術を持ち合わせていた。
だがその術は『ある反動』を術者に起こす、禁忌の術だった。
法術とは本来資質のない者にはどうあがいても扱えないものだ。
それをムリに埋め込もうと言うのだから、それは当然の結果だと言える。
そしてあの丘で儀式が行われ、その術が施された俺は法術を得るに至った。
「秋子さんの怒ったところ…見たことある?」
「…俺は見たことないな」
舞の唐突な質問に俺は困惑するも、頭の中は至って冷静だ。
少なくとも俺の知ってる秋子さんはいつも笑っていた。
「…そう、彼女には『怒り』の感情がないの」
「…どういうことだ?」
「ものみの丘…。あそこに存在する『法術そのもの』は『秋子さんそのもの』…。彼女があなたにかけた法術の反動として空に捕らえられた、彼女の一部…」
「つまり、その術の反作用として秋子さんの怒り感情が空に閉じ込められたというわけだな?」
こくり、と頷く。
「それはなぜ少女の秋子さんの姿をしているんだ?」
「…子供は…自分の心に純粋だから。そしてそれ故に残酷でもある…」
舞の言葉はいまいち抽象的だったが、その意味はだいたい分かる。
つまり、それは囚われた原因である俺に対し敵意を抱いているのだろう。
そしてその力を振るうのに最も適した姿が少女の姿だったということだ。
秋子さんはその『自分』を法術の力で抑えていたのだ。
「おい!なら秋子さんの結界術が解けたってことは…!」
「…忘れたの?彼女はあそこから動けない。仮に動けたとしても『力』はそこでしか働かない…」
「そうか…。なら俺が近づかなければ特に問題はないんだな?」
「そういう事…」
「…私は、自分のこの力が憎かった。…大嫌いだった」
数分の沈黙の後、舞が再び口を開く。
そして先程の戦いでついた俺の傷に手をかざす。
「でも、今は違う…。この力は私の母を助けてくれた。佐祐理に引き合わせてくれた。祐一に引き合わせてくれた。そして、大好きなみんなに引き合わせてくれた。…だから今はこの力が好き」
舞が話を終えると同時に俺の傷は塞がっていた。
「私は…この力で秋子さんを助ける…。このままでは『本当の』秋子さんは帰ってこないから…。私の『法術』はそのためにあるから…。だから、あなたは自分のなすべきことをして欲しい…」
「…その方法が俺は未だわからないんだよ…」
「…見つけて。…きっと答えは見つかる。だから…何年かかっても…」
俺は初めて舞の笑顔を見た。
「ああ。見つけてやる。それで全てが終わるんだからな…」
その笑顔に俺はいくらか勇気付けられたような気がする。
外では空が白み始めていた。
今長かった夜が明け、いつもと変わらない日常が始まろうとしていた。