Kanon・AIRリレー小説第5集
第4集に引き続き名雪防衛線の模様をお送りします(笑)
しかし、なんつーかもう勘弁してください。
俺こんなの書けませんってば。

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第11話 日溜まりの少女
ジリリリリリ・・・
鳴り響く目覚し時計に腕を伸ばして止める。
カチッ
ひどくだるい体を起こして、私服に着替える。
名雪と往人は日付が変わった今日、12月23日(木)午前1時頃に帰ってきた。
そんな時間まで一体何をしていたのだろうか・・・
お金を稼ぐっていったって・・・あんな大道芸じゃ稼げないだろ・・・
そもそも、見る人がいるのか?夜の寒空の下で・・・
はあ〜と大きく溜息をし、部屋を出た。
名雪の部屋の前で、『なゆきのへや』と書かれたプレートを見つめながら、ノックをしようとしてやめた。
そのまま一階に行き、洗顔を済ませる。
そして、リビングへ行くと・・・
「く〜・・・」
往人が気持ちよさそうに眠っていた。
耳元でそっと囁いてみる。
「昨日、名雪と何があった?」
すると、往人は寝言を言った。
「おい、おい・・・名雪・・・」
ピシッと俺の中で何かがひび割れた。
往人は名雪の夢を見ている。
しかも、顔をニヤニヤとさせている。
一体、どんな夢を見てるんだ?
なんだか無償に腹が立った。
くらえ!
俺は腹癒せに、往人の額目掛けて舞チョップを食らわした。
ビシッ!
「う〜ん・・・やるな・・・舞・・・」
夢の中に、今度は舞が出てきたようである。
・・・ムナシイ・・・
バカなことをやめ、ダイニングへ行く。
食卓には、真琴、あゆ、舞、霧島姉妹といつものメンバーが朝食を摂っていた。
秋子さんに朝食はいらないと告げ、二階へと戻る。
朝食など、喉を通る状態ではない。
不思議な感情で胸がいっぱいだった。
「くそ〜・・・」
ベッドに横になり、天井を見つめる。
「どうすればいいんだ・・・」
「うぬぬ・・・どうしたらいいんだろうねぇ〜」
「か、佳乃!い、いつの間に・・・」
「さっきからいたよぉ〜」
俺の隣には温かな微笑を湛える少女がいた。
一つのベッドに俺と佳乃は横になっていた。
「こら、こんなところを誰かに見られたら、誤解を招くだろう」
そんな時に決まって事は起こる。
僅かに開いたドアの隙間から誰かが覗いていた。
「な・・・名雪・・・」
その言葉に名雪が慌ててドアから離れた。
「名雪ちょっと待て!」
慌てて名雪を掴まえて、誤解を解こうとした。
「あ、あのな・・・あれはだな・・・」
「・・・ごめん、祐一・・・邪魔しちゃって・・・」
「いや・・・そうじゃなくてだな・・・」
「いいよ。わたし行くね」
名雪は必死で微笑んでいるようだった。
俺は、そんな名雪に何も言えなかった。
何で言えなかったんだ?
自分自身に苛立ちを覚えた。
「名雪ちゃん、なんだか悲しそうだったねぇ〜」
背後から佳乃が寂しそうに言った。
「誰のせいだ、誰の・・・」
そう言った後、俺は自嘲した。
悪いのは・・・俺か・・・
後できちんと説明しよう。
時間をおいて、お互い落ち着いてから話をしたほうがいいだろう。
そう思い、部屋へと戻った。

「で?何で佳乃はここにいるんだ?」
「祐一君が好きだからだよぉ〜!」
「・・・はい?」
俺が好き?・・・マ、マジ☆アン?
ちなみに、マジ☆アン?とは『マジですか?アンタ』のことである。真ん中の☆マークは気にしないように。
って、誰に説明してるんだ?俺は・・・
佳乃が俺のことを好き・・・
「な、なあ・・・佳乃・・・」
「な〜んちって〜!」
「・・・はい?」
「冗談だよぉ〜驚いた?」
「な・・・なんだ・・・冗談か・・・ハハハ・・・そうだよな・・・」
「ゴ、ゴメン・・・そんなに落ちこむとは思わなかったよぉ〜。でも、でも、みんなと同じ好きっていうことだよぉ。う〜ん・・・違うかなぁ・・・有力候補かなぁ〜・・・う〜ん・・・」
佳乃は考え込んでいた。
「そっか。それならいいや」
ベッドから起きあがり、机の上に置いておいたプレゼントの一つを佳乃に手渡した。
「これ、わたしに?」
「ああ、いらないなら返してくれればいいけど」
「うれしいよぉ〜。ありがとう祐一君」
満面の笑みに、思わず顔が熱くなる。
「開けていいかな?」
「ダメといったら開けないのか?」
「大事にとっておくよぉ〜」
「・・・開けていいぞ」
ダメと言ったら、本当に開けずにとっておきそうなのでそう言った。
嬉しそうに包装を開け、中身を取り出した。
「わあ〜バンダナだねぇ〜」
佳乃の掲げるもの・・・それは黄色いバンダナ。
「でも、わたし・・・これ持ってるよぉ〜」
ガーン!・・・も、持ってる?
「・・・マジ☆アン?」
「・・・うん・・・マジ☆アン・・・」
「・・・そ・・・そうか・・・」
「でもうれしいよぉ〜」
そう言って、右手首に結ぼうとするが、うまくいかない。
「俺が結んでやるよ」
顔を赤くしながら、佳乃の右手首に黄色いバンダナを結ぶ。
「これで魔法が使えるよぉ〜」
魔法?そういえば、以前もそんな事を言っていたな・・・
「なあ、佳乃。なんで魔法が使えるんだ?」
「そ、それは・・・秘密だよぉ〜」
慌てて、口に手を当てる。
なぜか頬が朱に染まっていた。
「秘密か・・・知りたい」
「うぬぬ・・・以前も着けてたんだよ、バンダナを。大人になるまでバンダナを外さなかったら魔法が使えるようになるって言われて、小さい頃からずっと着けてたんだよ」
「でも、初めて会った時から今までは、着けてなかったよな・・・バンダナ・・・」
「魔法はね・・・使えたんだよ・・・ちゃんと。だから、外したんだよ」
俺を見つめる目は、どこか遠い目をしていた。
とても嬉しそうだった。
「それって・・・大人になったってことか?」
「う〜ん・・・そうだね」
そうは思えなかった。
「でも、大人になったんなら、もう使えるんじゃないのか?魔法」
「今度はもっと大人にならなきゃだめなんだよぉ」
「そうなのか・・・」
よくわからないが、とりあえず納得しておいた。
「今度はどんな魔法が使えるのかなぁ〜」
「前は、どんな魔法が使えたんだ?」
「えっとぉ・・・秘密だよぉ〜!」
そう言うと、佳乃は部屋を出ていった。
『魔法が使える』その言葉は現実の世界としては、なんとも可笑しな話である。
普通の人が聞いたら、笑ったり、奇異の目で見るだろう。
だが、俺はそれを信じる。
俺自身が、魔法のような奇跡を体験しているからだ。
ドアを見つめ、微笑みながら思った。
魔法か・・・使えるといいな・・・また。


第11羽
今、俺のポケットには5000円の大金が入っている。
名雪に奢ったせいで多少減ったが目標金額には充分届いている。
この勢いで連勝街道を驀進させてもらおうではないか。
名雪のおかげでなんとなく芸を見てもらえるコツも分かった。
まさに名雪様々である。
プレゼント選びは午後からにすると祐一に告げ、俺は意気揚々と商店街に繰り出した。

さて、と。
昨日俺が名雪に教わったこと。
それはやはり人当たりである。
不自然なほどに人当たりを良くしてもそれはかえって逆効果になるのだ。
あくまでも自然なものでなくてはならない。
もっとも、それが難しいのではあるが…。
とりあえず挑戦あるのみ。
…しかし…。
「今日は人が少ないな…」
あたりを見回しても人の数は昨日よりも少ない。
やはりこの寒さが原因なのだろうか?
「場所を変えるか…」
このまま粘っても成果はあがらないだろう。
だが、どこに行くべきかが分からない。
俺の知っているのは他には公園ぐらいである。
商店街に人がいないのに公園に人がいるとは思えない。
「まあ、適当に動くか…」
商店街から大きく外れなければ迷うこともないだろう。
俺は商店街に沿って移動することにした。

しばらく歩くと少し開けた場所に出る。
「…駅か…。いけるかもな」
この街の玄関口でもあるわけだからな。
「よし、連勝と行かせてもらうか」
俺は適当な場所に陣取るとポケットから人形を取り出し念を篭める。

………。
「なんでやねん…」
「にゃはは、なんでだろうねぇ〜?」
「…はい、残念だったで賞」
遠野は以前と同じようにポケットから白い紙を取り出す。
俺は黙ってそれを受け取るとポケットにねじ込んだ。
「で、…だ。なんでお前らがココにいる?そしてなぜ俺の邪魔をするんだ!」
「これを…」
そう言って遠野は俺に一枚の紙を見せる。
「…なるほど」
どうも商店街の福引で旅行券を引き当てたらしい。
「で、俺の邪魔をする理由は?」
「ジャマなんかしてないじゃん。みなぎと遊んでるだけだもん」
「だからだろ。お前らがシャボン玉で遊んでるから皆そっちに注目…」
…………。
…俺の人形芸ってシャボン玉以下…?
「…あ、再起不能…」
「…はぁ。もういい」
しかし佳乃に続いてこのボケボケコンビまでやって来るとは、作為的なものを感じずにはいられない。
「ねぇ、国崎往人。アンタ今この街で生活してるんでしょ?せっかくだから案内されてやる」
「…いやだ」
ガスっ!
「…ぐっ…!てめぇ何しやがる…」
必殺のムエタイ式ちるちるキックが俺の鳩尾に直撃する。
「ふんっ。ケチケチするからだろっ」
「はい、みちるがチャンピオンに決定…」
「やった〜。おこめてん〜」
遠野が再び取り出したお米券を受け取りみちるはご機嫌モードになる。
「みなぎも国崎往人に案内するように言ってよ〜」
こくり、と頷く。
「国崎さ…」
「残念だがそれはムリだ。そろそろ約束の時間だからな。人を待たせてるんだ」
駅舎の時計はそろそろ祐一と待ち合わせの時間であることを示している。
「…がっくし…」
…なつかしの遠野さんのがっくりが入る。
「国崎往人のけち!人がこんなに下手に出てやってるのにっ!」
「お前は全然下手に出てないだろうが」
少なくともこんな『下手』は見たことがない。
「まあ、迷惑をかけないならついてきてもいいけどな。どうせ今からウロウロするんだから」
「…いいんですか?」
「ああ、確かにこれも何かの縁だろう」
「やった〜。さすが国崎往人っ!」
「調子いいんだよ、お前は」
ぱこっ、とみちるの頭を叩く。
「うにゅう」
「じゃあ、行くか。ただし本当に迷惑かけるなよ?俺が世話になってる連中なんだからな」
「はい」
「にゃはは。大丈夫大丈夫♪」
遠野はともかく、みちるは危険な気がする…。
多大な不安を抱えつつ、祐一との待ち合わせ場所へと向かった。


第12話 悲しみの少女
夕方・・・
闇が辺りを包もうとしていた頃、俺は商店街にいた。
「何やってんだ?アイツは・・・」
『商店街の入り口で待ち合わせ』と言っておいて・・・
やれやれ・・・
何度目かの時計確認をしていると、妙な光景を目にした。
前方に見える、舞の姿。
声をかけようとして、躊躇した。
どうしたんだ?・・・舞のヤツ・・・
その体が、覚束ない足取りで商店街の奥へと消えて行く。
舞の様子が気になり、後をつけることにした。
歩みを進めるにつれ、闇は色濃くなっていく。
そして、舞が立ち止まった時には、すでに辺りは完全に闇に包まれていた。
ここは・・・
空には輝く星々。
地上の遥か先には、隣街の灯りが輝いて見えた。
追い風がサーッと草原を優しく撫でてゆく。
ものみの丘。
その中央で、舞は剣を構えていた。
何だ?・・・何をするつもりだ?・・・
そう思った時だった。
ふいに訪れた気配に、俺は辺りを見まわし、身震いする。
今の感覚は・・・
慌てて舞に視線を向ける。
ガギッ!
何か硬いもの同士が触れ合う音。
その音が、辺り一面に響き渡る。
舞が何かと戦っていた。
必死で剣を操る舞。
手からジワリと汗が滲み出る。
そして、ギュッと汗ばんだ両手を握り、俺は叫んだ。
「舞!!!後ろだ!!!」
なぜ、そう叫んだのかだろうか・・・自分自身、不思議だった。
俺の声に反応し、振り向き様に剣を薙ぐ。
ザンッ!
舞の剣が何かを切った。
そのとたん、気配が一つ消えた。
残る気配は、あと二つ。
俺は、足下に落ちていた石を拾い上げ、気配を頼りに見えない敵に向けて、思い切り投擲した。
ガッ!
石は見事に命中し、敵の気配が一瞬止まる。
スキが生じたのだ。
そのスキを舞は見逃さなかった。
一瞬で敵との間合いをつめる。
ザンッ!
剣が弧を描き、敵を一刀両断にする。
残る気配は、あと一つ。
舞がこちらを向いて叫んだ。
「祐一!!!・・・」
舞が大声で叫んだ・・・珍しい・・・
「逃げて!!!」
逃げて?・・・あっ・・・
敵の気配が俺の方へ向かっていた。
何の武器も持たない俺が、戦える相手ではない。
慌てて踵を返し、全力で走った。
背後では、今にも追いつきそうなくらい間近に、敵の気配を感じる。
このままじゃ、マズイ・・・
手に持っているのは、コンビニの袋。
ガサガサと中を漁ると、ふいに手に温かい感触。
これだ!
手に取って、見てみる。
・・・・・・・・・肉まん・・・
ダメじゃん・・・
いや・・・これを食べてパワーアップだ!
熱いのを我慢し、一気に肉まんを食べる。
「ふう〜・・・美味かった・・・」
そして、思わず立ち止まる。
・・・やっぱり、バカじゃん・・・俺・・・
ガッ!
「ぐはっ・・・」
背中に焼けるような熱さを感じた。
次の瞬間には、冷たい地面に倒れていた。
シャレにならねえ・・・
体が動かなかった。
頭上では見えない敵の気配を感じる。
とどめを刺すつもりだろうか。
何もできない・・・
目を閉じ、覚悟を決めようとした時だった。
「はあああああああぁぁぁぁぁーーーーー!!!!!」
凄まじい気合を込めた声が聞こえた。
この声は・・・
ドゴッ!
声の主が、敵に鋭い蹴りを叩き込んだ。
敵の気配が遠のいて行く。
ものすごいキック力だ。
敵の気配のする方に視線を向けると、舞が宙を舞っていた。
剣がキラリと閃いた瞬間・・・
ザンッ!
敵の気配が消えた。
「YOU WIN!」
「バカか・・・お前は・・・」
俺を助けた声の主が、呆れ顔で見下ろす。
「助かった・・・ありがとう・・・往人」
往人の肩を借り、ふらつきながら立ちあがる。
「よくここがわかったな」
「・・・・・・・・・なんとなくな」
「しかし・・・すごいキックだったな・・・」
「まあな・・・」
「人形劇で稼げなかった腹癒せか?」
「うっ・・・」
図星のようだった。
「ま、まあ・・・名雪の誕生日プレゼントを買うお金はあるから心配ない・・・」
そうだ・・・
「おい、何で時間どおり来なかったんだ?こっちはどれだけ待ったことか・・・」
「わ、悪い・・・コイツらのせいで遅れた」
親指で後ろを指すその先。
佳乃が着ていた制服と同じ服を着たお嬢様タイプの少女と、赤い髪を左右で結わえた
女の子がいた。
「誰?」
「こっちが遠野美凪で・・・」
お嬢様タイプの少女を指差す。
「・・・こっちがちるちる小猿」
ドゴッ!
ちるちる小猿?の蹴りが、往人の鳩尾にクリーンヒットした。
痛い・・・痛いだろ・・・これは・・・
往人は無様に、地面を転がった。
「だれが小猿だ!みちるはみちるだもん!」
「お、俺は相沢祐一。往人のご主人様だ」
「だれが、ご主人様だ・・・だれが・・・」
鳩尾を押さえながら、往人は立ちあがった。
「しかし・・・こうして往人、遠野さん、みちるちゃんの3人を見ていると・・・家族みたいだな」
「ちがう!!!どう見てもおかしいだろ!!!」
ぽっ・・・と遠野さんが頬を染めた。
「こら、遠野!誤解を招くだろ!」
「往人が父親だったら幻滅だよ」
ドゴッ!
今度は往人の拳がみちるちゃんの脳天に炸裂した。
「ごにょっ〜」
妙なうめき声をあげ、みちるちゃんが頭を押さえた。
「おい、おい・・・みちるちゃんがかわいそうだろ」
「お前は何もわかってないんだ・・・コイツの恐ろしさを・・・」
「知るわけないだろ。でも俺はみちるちゃんの味方につくぞ」
「祐一お兄ちゃんは優しいね〜。往人も見習え!」
すごい違いだ・・・これは敵にまわしてはならない・・・
「あの・・・」
遠野さんがポツリと呟いた。
全員の視線がそこに集まる。
「・・・あの人は?」
遠野さんの指差す先。
振り返ると、覚束ない足取りでこちらに歩いて来る舞いがいた。
「ああ、彼女は川澄舞。俺の先輩だ」
舞は俺の前まで来ると、急に倒れこんできた。
その体をしっかりと受け止める。
「お、おい・・・舞?・・・舞、しっかりしろ・・・舞!」
頬を軽く叩くと、ようやく目を開けた。
「大丈夫か?」
「・・・大丈夫」
「お前さっき、何と戦ってたんだ?」
「・・・呪い」
「呪い?」
全員が同じことを口にする。
『呪い』と戦う・・・どういう事だろうか・・・
「何でお前が『呪い』と戦わなくちゃいけないんだ?」
「・・・泣いてるから」
「泣いてる?誰が・・・」
「・・・空の少女が」
空の少女?と、一人だけ疑問を抱かなかった人物がいた。
「なっ・・・何で舞が知ってるんだ?」
往人である。
「おい、答えろ!舞!」
「やめろ!」
舞の肩を掴み、強く揺する往人を制した。
「どういう事情か、詳しい説明は帰ってからだ。それに早く帰らないと・・・今日は名雪の誕生日を祝うんだろ?」
「そ、そうだな・・・」
「遠野さんとみちるちゃんも一緒に来ないか?」
「よろしいのでしょうか?」
「行く!行こうよ、美凪!」
「待て、秋子さんに・・・」
往人は途中で言葉を止めた。
『秋子さんに迷惑がかかるだろう』そう言おうとしたのだろう。だが、秋子さんが拒むはずがない。瞬時に『了承』と言うだろう。往人の頭の中にそれが思い浮かび、途中で言葉を止めた。そんなところだろう。
「さあ、行くぞ!」
舞を背負い、俺達は水瀬家へ向かって歩き出した。
その途中で思い出した。
「おい、往人。プレゼントはどうした?」
「・・・あっ・・・買ってない・・・お前とプレゼント選びをするはずだったからな」
「どうするんだ?」
「熱いくちづけでいいだろう」
「・・・マジ☆アン?」
「マジ☆アンだ」
もし本当にやったら・・・聖さんに任せよう。


第12羽 宴の前
「ただいま」
祐一が先頭を切って玄関をくぐる。
「まあ、120%大丈夫だとは思うが一応訊いてくる」
「ああ」
祐一はそう言ってリビングへと向かったが、俺も訊くまでもないと思うんだが…。
「了承」
「どわぁ!!」
「にゅおっ!」
突然の気配に俺とみちるは思わず声を出して驚いてしまう。
だがなぜか遠野と舞は平静を保っている。
俺たちの背後にいつの間にか秋子さんが立っていたのだ。
「人は多いほうが楽しいですから」
お決まりの頬に手を持っていく仕種で答える。
「ありがとうございます」
遠野とみちるが丁寧に答える。
「うおっ、みちるが丁寧に挨拶した!」
「うるさいぞ!国崎往人!私はアンタが嫌いなだけだもん」
「そらよかったな」
「にゅおぉ〜。なんかバカにされた気分…」
「おお、よく分かったな」
いつものことなので適当に流す。

「だあぁっ!!何だこの有り様は!?」
遠野たちが秋子さんと挨拶をしているとリビングのほうで祐一の叫び声が聞こえた。
俺たちはリビングへと急いだ。

「…あらまあ。すごいことになってるわねぇ…」
「……………」
「にゅおおぉ…。すごい…」
「……………。……うわ…」
「こら大変なことになってるな…」
秋子さん、舞、遠野、みちる、俺と、リアクションはそれぞれだが一様に驚いていることには変わりない。
リビング、というかキッチンにかけて物凄い散らかり具合である。
「…うぐぅ…。めちゃくちゃになっちゃたよぉ…」
「うぬぬぅ…。難しいねぇ…」
「あはは…」
その中心にいるのはエプロン姿のあゆ、佳乃、真琴の3人。
「つまり、名雪のために料理を作ってたらこうなったわけだな?」
その3人に事の顛末の説明を求める祐一。
「うぐぅ…。こんなハズじゃなかったんだよ〜」
「第一、聖さんはどうして止めなかったんだ?」
リビングでテレビを見ている聖に訊ねる。
「相沢君。キミは名雪ちゃんの誕生日プレゼントを作るのに必死な佳乃たちを止めろ、と言うのか?」
「いや、そうは言わないが…」
キラリと鋭く光る4本の刃を見て祐一が後ずさる。
「しかしこれじゃあパーティーどころじゃないぞ…」
「…ごめんなさい…」
平謝りの3人。
このまま後始末をしていたらパーティーの開始に間に合わないだろう。
「どこか会場代わりになる場所はないのか?」
「そんな場所があるなら教えてくれ」
「ムチャ言うな。俺はよそ者だぞ」
「…そうねぇ。ないこともないけど…」
秋子さんが何かを考えついたらしい。
「ホント?秋子さん」
「ええ、ホントよ、あゆちゃん。駅の近くに大きな温泉旅館があるでしょう。そこに知り合いが勤めてるのよ。ちょっと待ってね。確認取ってみるから」
そう言って秋子さんは電話をかける。
その状況を固唾を飲んで見守る一同。
「…ええ、はい。わかりました。ありがとうございます」
話はすぐに終わった。
「どうだったんですか?」
「大丈夫だそうよ。ついでに宿泊もさせてもらえるって」
「ホント!?」
この事態の元凶とも言える3人が声を荒げて訊ねる。
「それでは祐一さん、私はここの後片付けをしてから行くので名雪に知らせてもらえませんか?」
「分かりました。…あゆ達は片付けを手伝うんだろ?」
「うん、当然だよっ」
「なら後で秋子さんと来るんだな。…往人たちは?」
「そうだな…俺はちょっとプレゼント探してから行きたいんだが…場所分からないしな…」
駅までは分かるがその旅館の場所までは分からない。
「国崎さん。私そこ分かります」
「…なんで遠野が知ってるんだ?」
「…私達はそこに宿泊するんです」
…なるほどな。
「じゃあ、案内してもらえるか?」
「はい」
「『案内してください、みちる様』って言え」
「と、いう事なので俺は遠野たちと後で行くわ」
あえて、みちるは無視しておく。
「にゅおぉ〜。ムカつくぅ〜っ」
「舞は?」
「私は佐祐理に知らせないといけない…」
「そうか。なら舞も別行動だな」
「…場所が分からない…」
「…お前は往人と違ってジモッティーだろ」
「じゃあ舞、俺達と行くか?」
俺は舞に提案する。
「どうせ俺達も寄り道組だしな」
「…助かる」
こうしてそれぞれの行動が決定した。

祐一は名雪を連れ出している美坂姉妹と北川(まだ会った事がない)と合流し、目的地へ。
秋子さん、あゆ、真琴、霧島姉妹(および駄犬)は後片付け後目的地へ合流。
俺、遠野、みちる、舞はプレゼントを買いながら佐祐理と合流し、目的地へ。

「さて、と。まずは香里の携帯に電話してみるか」
そう言って祐一は電話へと向かう。
「じゃあ、俺達は先に行くから。またあとでな」
「ああ」
「往人くん、じゃあねぇ〜」

俺達はとりあえず舞の案内で佐祐理の家へと向かった。


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