Kanon・AIRリレー小説第2集
この辺りからお互いが前話で振った展開をキャンセルしだします(笑)
展開が急に変わるので注意しましょう。
だってそうしないと思ったとおりに進めないじゃん。
ちなみに、第2集まではKがAIR始める前なのでKanon編の往人は少しキャラが違うかも。
だとしたらそれは俺のせいなんだけどね(笑)
あとサブタイトルが付いたり付かなかったりしてますが気にしないでください。
第5話
「じゃあ、何て呼べばいいんだ?」
「往人でいい」
「じゃあ、俺のことは祐ちゃんでいいぞ」
「祐一と呼ばせてもらう」
「残念だ」
半ば呆れ顔の往人。
だが、俺は視線をすぐに別の方に向けた。
往人の後方に凄まじいまでの殺気・・・真琴である。
「ゆ〜う〜い〜ち〜!」
「ただいま。何かあったのか?」
つとめて、平静を保つ。
「何かあったのか?じゃないわよ!よくも、からし入り肉まん食べさせたわね!」
「そうだったか?」
「そうよ!」
「細かい事は気にするな」
「気にするわよ!」
ぎゃあぎゃあと文句を言いまくる真琴を無視して、名雪の方へ行き、
「すまん、名雪。ああするしかなかったんだ」
と謝るが、名雪は何がなんだかわからないといった表情で、
「何が?」と言った。
「いや、何が?って・・・からし入り肉まん食べただろ?」
「そんなの食べないよ〜」
食べてない?どういうことだ?
確か、2人の悲鳴が聞こえたはずだったが・・・じゃあ、もう1人の悲鳴は・・・
その時、背後に凄まじいまでの殺気を感じ、振り向くと、
「ゆ〜う〜い〜ち〜く〜ん〜!」
「あ、あゆ・・・」
まさか・・・
「どうして、肉まんにからしなんか入れたの!」
「いや、それはだな・・・そ、そう、肉まんにからしを入れるとお通じがよくなるんだ。だから・・・」
「あら、そう。そうなの」
あゆとのやりとりに、秋子さんが入ってくる。
「い、いや・・・そうじゃなくて・・・」
「やっぱり、うそなんじゃない!」
「甘いたい焼きばかり食べてるから、たまには辛い物も食べなきゃな」
「だからって、あんなに大量に入れなくてもいいでしょ!」
「まさか、あゆが食べるとは思わなかった。すまん」
「うぐぅ〜」
あゆにはなんとか許してもらったが・・・一難去ってまた一難・・・
「つまり、私に食べさせるつもりだったの?」
今度は名雪である。
「いや、それはだな・・・」
しどろもどろしていると、
ぐきゅるるるるぅ〜・・・
全員の視線が音の方へと向けられる。
「・・・・・・夕飯は・・・まだなのか?」
空きっ腹を押さえながら、顔を赤くして言う往人。
「あら、あら、すぐに用意しますね」
そう言うと秋子さんはキッチンへと向かった。
「あっ、私も手伝うよ」
そう言い、名雪もキッチンへと向かった。
「ねえ、祐一君。この人誰?」
あゆが往人を指差しながら訊いてくる。
「えーと・・・誰だっけ?」
「往人だ、往人!国崎往人!もう忘れたのか!?」
「冗談だ」
完全に呆れられている。
「と言うことだ。わかったか?あゆ」
「うん。ボクは月宮あゆだよ」
「そうか。よろしくな、あゆ」
「うぐぅ〜、祐一君はボクのこと知ってるでしょ!」
「そうだったな」
「よ、よろしく・・・あゆと呼べばいいのか?」
「うん。それでいいよ」
「じゃあ、俺のことは往人ちゃんでいいぞ」
「うん。わかった」
「い、いや・・・冗談だ。往人さんでいい」
「うん。わかった」
「変わった奴だな、往人は」
「・・・・・・お前には言われたくない」
ま、まあいい。
「ちなみにあゆは俺の妹だ」
「うぐぅ〜、違うでしょ!同級生だよ」
「そ、そうか・・・」
往人はとても疲れているようだ。
よほどお腹が空いているのだろう。
「ところで、何であゆがいるんだ?帰らないのか?」
「夕飯をご馳走になるんだよ」
「自分の家で食べろよ」
「いいでしょ!秋子さんはいいって言ってくれたんだから」
「ここの晩飯代は高いぞ。一食2000円だからな」
「うぐぅ〜、高すぎるよ〜」
「そ、そんなに高いんか!?」
「い、いや、そんなにマジにならなくても・・・冗談だ」
あまりに驚く往人をなだめていると、名雪がリビングに来た。
「ご飯の用意ができたよ〜」
その言葉とともに、その場にいた全員がダイニングへと移動する。
その途中、往人が名雪に耳打ちしていた。
丸聞こえだったが・・・
「な、なぁ、ほんとに晩飯一食2000円なのか?」
「え?何それ?」
名雪はわけのわからないといった表情をした。
そりゃ、そうである。
ダイニングへ行くと、テーブルにはおいしそうな料理の数々が用意されていた。
「今日はステーキか。豪勢だな」
席につくと、名雪が目の前のステーキをどけて、
「はい、祐一の晩御飯」
と言いつつ、どんぶり山盛りの紅しょうがをドンッと置いた。
「な、名雪・・・マジか?」
名雪は何も答えずに自分の席についた。
「クックックッ・・・美味そうだな、祐一」
ニヤリと笑みを浮かべながら言う往人。
「なら、替えてやろう」
俺は素早く、どんぶり山盛りの紅しょうがを、往人のステーキと取り替えた。
第4羽
「祐一、往人さんを巻き込まないで。祐一が悪いんだから」
そう言って名雪は俺のステーキを祐一から取り返してくれる。
「あははー。このお肉おいしいね」
それを見てここぞとばかりに真琴が祐一にリベンジを図る。
「名雪、俺が悪かったからカンベンしてくれ」
「イチゴサンデー」
「お前いつからそんな欲張りな子になったんだ!」
「きっと祐一の影響だよ。ダメなら紅しょうが食べて」
「…分かったよ」
…交渉成立のようだ。
こうして祐一も無事食事にありつける。
そんな風に騒ぎながら食事は続いた。
「へぇ〜。往人さんは旅をしてるんだ」
あゆが感心したように言う。
食後は俺の話題になっていた。
「しかし俺はあんなでかいおにぎり見たことないぞ」
祐一がみんなに昼間の話をする。
「いや、実はある事情から米だけには困らないんだ」
「なんだ?ある事情って?」
祐一が当然の疑問を口にする。
俺はバッグから遠野にもらったお米券を取り出す。
「1枚、2枚、3枚…」
それを見て真琴が数え始める。
「一体何枚あるんだ?」
「…およそ89枚」
「あらあら、そんなにあるの?」
「…びっくり」
「これでも減ったほうだぞ。貰ったときは96枚あったんだからな」
「そんなにお米券持ってるなんて変わってるね」
「あゆに言われたくないだろ」
「うぐぅ〜。祐一君いじわるだよ」
「事実だからな」
「祐一にも言われたくはない思うぞ、俺は」
祐一とあゆのやりとりに割って入る。
この家の人間はどうも親しみやすい。
こんなにじっくり人と話したのは観鈴の家にいた時以来だな。
だがこれ以上ここにいる訳にもいかない。
「さてと」
俺はそこを立ち上がる。
「俺はこの辺で失礼させてもらう」
「え?」
「これ以上ここにいると宿を探す時間がなくなるからな」
正確に言うと宿ではなく宿代わりなんだが、それはここで言うことではない。
「泊まってけばいいのに」
名雪が言う。
「もともと芸の見物料の代わりに夕飯をご馳走になっただけだ。これ以上甘えるわけにはいかない」
その辺のケジメはつけないとな。
「往人」
祐一に呼ばれる。
「別に用事があって帰るわけじゃないんだろ?」
「ああ」
「だったら帰れないぞ、お前」
「は?なんで?」
「往人さん、お風呂入れますよ」
「だあぁっ!?」
いつの間にかいなくなったと思った秋子さんに背後から声をかけられる。
そして俺にバスタオルを手渡すと、再びキッチンに戻り何かを始める。
「秋子さんのことだから最初からお前を泊めるつもりだったんだよ」
「そら泊まれるんならありがたいが…。普通初対面の人間泊めないだろ?」
物置とかなら泊めてくれた人もいたが。
まあ観鈴は初対面で泊めてくれたがあいつは特別だからな。
「ああいう人だからな。そういえばあゆはどうするんだ?」
「ボク?ボクは帰るよ」
「そうか、ちょうどいい。往人、イイモノみせてやろう」
「なんだ?」
祐一は秋子さんを呼ぶとこう切り出した。
「秋子さん、あゆが夜道が怖くて帰れないって言うんで泊め…」
「了承」
「と、こういうわけだ。さすがに言い切る前に了承されるとは思わなかったが」
「うん。毎回早くなってくよね」
「っていうか、少しは名雪も見習え」
「そんなことより『あゆが夜道が怖いから』ってなんだよ〜っ!」
「違うのか?」
「うぐぅ、違うもんっ。別に怖くなんかないもんっ」
「それはいいとしてだ」
「全然良くないよっ!」
「そういうわけだ。今日は泊まっていけ」
「本当にいいのか?」
「秋子さんはここの家主だからな。あの人がいいって言うんだからいいんだよ」
「そうだね」
「…分かった。って、今の話の中のどこに俺が泊まるって話が出てきた?」
「何処にもなかったな」
さらっと言う。
「いいから風呂入って来い。出てこれば分かる。名雪、連れてってやれ」
「うん、往人さんこっちだよ」
「ああ…」
釈然としないまま風呂に案内される。
まあ、こうなったら風呂ぐらいゆっくり浸かっておこう。
寒さで予想以上に疲れてるのは事実だしな。
そして風呂から出たとき、
「リビングにお布団敷いときましたから」
と、言われた。
「…な、言ったとおりだろ?」
「ああ」
「みんななんだかんだ言ってあの人のペースにはまってくんだよ」
…分かる気がする。
でもそのマイペースぶりを不快に感じさせず、むしろ穏やかな気分にさせるのはあの人の人柄だと思う。
「名雪、どうせ寝ちまうんだから先に風呂入れ」
「うん、分かったよ。じゃあ往人さん、くつろいでってね」
結局俺は水瀬家に泊まることになった。
第5羽
風呂から出てきた後も話題の中心は俺だった。
今までどんなところへ行ったか、そこでどんな事があったか。
そんな話をして時間は過ぎていった。
結局解散になったのは日付の変わった後だった。
「ふぅ。さすがに話し疲れたな…」
そもそも人とこんなに話すなど、以前の俺ではあり得なかった。
……………。
やっぱ観鈴や遠野、それに佳乃のせいなんだろうな…。
人形を見ながら、ふとそんな考えが浮かんだ。
さて、と。寝るか。
さすがに疲れてるからな。
今なら3秒数える間に眠れるだろう。
3…。
2…。
1…。
ぐぅ〜。
俺の腹が鳴った…。
…………。
またかよ。
なんとか寝ようとするが空腹のせいでなかなか寝付けない。
仕方ない。
少し食い物を調達させてもらおう。
さすがにそこまでするのは忍びないが、このままでは空腹・睡眠不足のクロス攻撃に遭ってしまう。
そうなれば明日の行動にも支障が出る。
往人ちん、だぶるぴんちっ、ってなカンジである。
物音を立てないよう、慎重にキッチンまで向かう。
…見えにくいな。
別に電気を点ければいいのだが、誰かを起こしてしまうかもしれない。
冷蔵庫は、っと。
…あれだな。
俺は冷蔵庫を開ける。
暗闇に目が慣れていたためか、中の光が予想以上に眩しく、一瞬ひるむ。
…………。
中にはそのままで食べれそうなものはなく、調理する必要のある物ばかりだった。
さて、どうしたものか…。
思案に明け暮れていると、急に視界が開けた。
冷蔵庫の光よりさらに明るい光に当てられ目が痛い。
そして明かりを点けた人物と目が合う。
それはこの家の家主である秋子さんだった。
「お腹すいたんですか?」
「…すまない。起こしてしまったか」
「いえ、なんとなく目が覚めてしまって…。今何か作りますね」
秋子さんは冷蔵庫から数点の材料を見繕い、エプロンを身につけると手際よく調理を始める。
そして真夜中には不釣合いな音がキッチンに響く。
ほどなくして二人分の塩焼きそばがテーブルに並ぶ。
「どうぞ、食べてください」
そう言って俺に箸を渡す。
「ああ。そうさせてもらう」
俺は差し出された箸を受け取るとそれを食べにかかる。
「…どうですか?」
「ああ、うまいぞ」
本当はうまいどころかかなりうまいのだが、そこまで言うのはなんとなく気恥ずかしい。
「そうですか」
秋子さんはそれを見抜いたのか、満足そうに微笑むと自分も食事に取り掛かる。
しかしそれを食べている間、俺達にはひとつたりとも会話がない。
なんとなく気まずいが、こういう状況ですべき話を俺には見つけることができない。
だから彼女が切り出してくるのを待つしかなかった。
そしてそれにはさほどの時間がかからなかった。
食後のお茶を飲んでいると、こう切り出された。
「…往人さんはどうして旅をしているんですか?」
「……………」
やはりそれを聞かれるのか…。
ある程度の予想はしてたものの、俺はどう答えるべきか分からない。
俺の沈黙をを彼女はどう受け取ったのだろうか?
表情ひとつ変えずに俺を見ている。
「…約束、だからだな」
俺はひとしきり考えた後、こう答えた。
「約束、ですか?」
いまいち理解しかねるといった顔でこちらを見ている。
当然というか、やはりこれだけでは伝わらないようだ。
しかし俺の話が他の人間に理解できるのだろうか?
いや、できないだろう。
「この空には翼を持った少女がいる。それはずっと昔から」
だが俺は自分でも気付かないうちに話を始めていた。
秋子さんはそれを静かに聞いてくれている。
「俺だってこんな話は信じられなかった。でも今は確信がある。俺は彼女を探し出して助けてやらなくてはならない」
こんな話、信じろというほうが無理な話だ。
だが秋子さんは…。
「…そうですか。大変な約束ですね」
それは彼女のクセなのだろうか?
右手を頬に持っていって微笑む。
「往人さん。しばらくはこの街に滞在するんですね?」
「…ああ。そういうことになるな」
俺がこの街ですべきことは二つある。
ひとつはその少女を探し出すこと。
もっともこの街にいるとは限らないが。
そしてもうひとつは旅を続けるための路銀を稼ぐことである。
それらをなすためにはしばらくこの街に滞在する必要がある。
「その間はこの家に泊まってってくださいな」
…まあ、なんとなく予想はついていたが。
「そらありがたいが…。本当にいいのか?」
「はい」
目を伏せて言う。
「ご飯は大勢で食べたほうがおいしいですから」
「……………」
この人は俺の話を聞いていたんだろうか?
そんな疑問にもかられる。
だがそれはないと思う。
それが何故だかはわからない。
「では今日はもう寝ましょうか」
「ああ」
こうして俺はしばらくの間水瀬家に滞在することになった。
第6話 目覚めた朝は悪夢かな
ジリリリリリッ・・・
「ふあ〜・・・」
腕を伸ばして目覚し時計を止める。
カチッ
カーテンの隙間から差し込む眩い光に目を細める。
今日は学校が休みなのでこのままもう1度眠ろうかと思ったがやめた。
その時、俺はふと思った。
なぜ、目覚し時計が鳴ったのだろう・・・と。
確か目覚ましはセットしなかったはず・・・
となれば・・・真琴だな。
まあ、別に困るようないだずらでもないので許すことにする。
なんて寛大なんだ・・・俺って。
カーテンを開けると、隙間光とは比べものにならないほどの光が目に飛び込んできて、思わず目を瞑る。
今日も良い天気だ。
おまけに寒そうだ。
辺りは一面、白い雪に覆われていた。
俺は身震いをしながら、私服に着替え1階へと降りていった。
洗顔を終え、リビングに行くと往人が気持ち良さそうに眠っていた。
「く〜・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
休みだからといって、だらだらとしていてはいけないな。
そう思い、2階へ行き、目覚し時計を持って再びリビングにもどる。
そして、往人の枕元に目覚し時計をセットしてソファーの陰に身を潜める。
しばらくして・・・
「朝〜朝だよ〜」
「な、何だ!?」
往人は飛び起きて、辺りをきょろきょろと見まわしている。
「朝ご飯食べて、学校行くよ〜」
「な、名雪か!?どこだ?」
依然として、辺りをきょろきょろと見まわし、名雪を探している。
今日は学校は休みである。
もとより往人には関係ないが・・・
「朝〜朝だよ〜」
・・・・・・・・・まだ探している・・・
なぜ気づかないんだ?
さすがに、見ていてかわいそうになり、目覚し時計を止めてやる。
「おはよ。良い天気だな」
「お、おはよう。名雪はどこだ?」
「名雪?名雪はたぶん、まだ自分の部屋で寝ているはずだぞ」
「だ、だが確かに名雪が、『朝〜、朝だよ〜』って・・・」
「寝ぼけてたんじゃないのか?」
「そ、そうなのか・・・」
プククククッ・・・面白いヤツである。
明日は誰の声で起こしてやろうか・・・
そんなことを考えながら食卓に着き、朝食をとる。
今日の朝食は、トーストと目玉焼きである。
トーストをかじっていると、洗顔を終えた往人が席に着いた。
「おはようございます」
「おはよう」
「よく眠れました?」
「おかげでな」
「朝食はご飯にします?それともパンにします?」
「・・・・・・パンで」
「はい」
そう言うと秋子さんはパンを焼き始めた。
「ご飯ばかり食べてるからか?」
「まあな」
「パンの耳はロバの耳なんだぞ」
「そんなわけあるか!」
「冗談だ」
「・・・・・・・・・」
往人は煎れ立てのコーヒーを飲んだ。
しばらくして、焼き立てのトーストが往人の前に運ばれてきた。
そして、秋子さんの言葉に俺は絶句した。
「往人さん、このジャム試してみてください」
往人の目の前に出されたビンには、オレンジ色のジャムが入っていた。
間違いない・・・あのジャムだ。
「甘くないのなら良いぞ」
「ええ、ちょうど良いと思いますよ」
「そうか、ならもらおう」
そう言うと、往人はジャムをパンにまんべんなく塗った。
・・・マジか?
その光景をまじまじと見ていると、往人が俺の視線に気づいた。
「な、何だ?どうかしたか?祐一」
「い、いや・・・何でもない・・・」
「何か顔色が悪いぞ・・・」
「気にするな・・・」
さあ、がぶっといけ、がぶっと・・・
どんなリアクションをするか、非常に興味があった。
クールに、小おどりするだろうか?
見物である。
がぶっ
と、大きく1口食べた往人は固まったまま動こうとしない。
「ゆ、往人・・・大丈夫か?」
「・・・・・・・・・・・・」
「うまいか?」
俺は笑いをこらえながら訊いてみた。
クールな瞳にきらりと涙。
「ま、まずい・・・」
「あら、お口に合いませんでした?」
秋子さんは表情は変わらないが、心なしか悲しそうである。
「代わりに、もう1枚焼きましょうか?」
「たのむ」
秋子さんは再びパンを焼きにかかる。
「秋子さんに失礼だろ?」
「まずい物はまずいんだ。ところで、祐一は知ってたんじゃないのか?このジャムのこと」
鋭い視線で見据えてくる。
「い、いや・・・知らなかったぞ。」
「なら1口食ってみろ」
ずいっと差し出されたトーストをまじまじと見る。
ぐあっ、メチャメチャ塗ってある・・・
「さあ」
さらにずいっと差し出してくる。
「・・・・・・もう、腹いっぱいなんだ、残念だ・・・」
「じゃあ、腹が減ったら、俺の目の前で食って見せてくれ」
「すまん・・・知っていた」
白状するしかなかった。
「何で教えなかったんだ?」
「いや・・・小おどりするか見たくてな」
「するか!・・・だが、したい気分だ」
俺達は大きく溜息をついた。
新たにトーストが運ばれて来た時、名雪が寝ぼけ眼でやって来た。
「おはようございます」
「おはようございます〜・・・く〜」
名雪は寝ていた。
「器用なヤツだな、名雪は」
「これがこいつの特技なんだ」
「俺も見習いたいな」
「・・・・・・・・・」
マジか?
ま、まあいい。
名雪はしばらく立ったまま眠っていたが、やがてふらふらと席に着いた。
「・・・・・・イチゴだおー・・・」
突然、意味不明な言葉を発する名雪に、俺達は驚いた。
どうやらまだ寝ぼけているようだ。
「変わってるな・・・名雪は」
「お前もな」
「お前に言われたくない!」
往人は朝から疲れているようだ。
「名雪、おきなさい。今日は出かけるんじゃなかったの?」
秋子さんの言葉にぴくりと反応する名雪。
「う〜ん・・・そうだった・・・」
「どこかに出かけるのか?」
「うん、それでね、往人さんに用があるの」
「俺に?」
「うん、往人さん、いっしょに映画見に行かない?」
「映画?別に構わないが・・・いいのか?」
往人が俺の方を見る。
「フッ・・・名雪に捨てられた・・・」
「ち、違うよ!」
かなり慌てている。
「そりゃ、往人の方が背も高いし、クールだからな・・・目つき悪くて、金無くて、愛嬌無いけど・・・」
「三言余計だ!」
「だから違うんだってば!祐一この映画見たくないって言うから・・・」
「そういえばそうだったな」
「どんなタイトルなんだ?」
「ラブラブマシーン大行進!っていう映画」
「・・・却下」
「え〜、何で?」
「なんかそのタイトルが耳に痛くてな」
「う〜ん・・・帰りに一緒にご飯食べようと思ったんだけど・・・私のおごりで・・・」
ぐあっ、なんか鋭い視線で名雪を見つめている。
「ほ、本当か?」
「う、うん。あと、町の案内なんかもしたいな〜って・・・」
「商談成立だ」
「ホント?やった〜」
「名雪に捨てられた・・・」
「だから違うってば!」
食事を終えると、早速出かける仕度をして、名雪と往人は出かけていった。
さて、俺は何をしようかな・・・
休みといっても、何も計画がない。
う〜ん・・・
しかし、気になる・・・名雪と往人・・・
とりあえず出かけるか。
いったん部屋へ戻って、コートを羽織る。
そして、秋子さんに出かけることを告げて、外に出た。
眩い光。
手をかざして、空を見上げる。
雲1つない青空。
そこに向かって、はあ〜と息を吐いてみる。
ぐはっ。
俺は冷たい雪の上に突っ伏した。
「おはよ〜、祐一君!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「わっ、無視して行かないでよ!」
あゆが慌てて追いかけて来る。
「あのなぁ〜、背後からいきなり抱きつくな、と言ってるだろ」
「大丈夫だよ」
何を根拠に言っているのだろうか・・・
「ところで、祐一君はどこに行くの?」
「・・・別にどこに行くかは、決めてないけど・・・」
実は、決定している。
だが、そんなことは恥ずかしくて言えない。
「さっき名雪さんと往人さんが一緒に出かけていったけど、祐一君は一緒に行かなかったんだね」
「ああ、名雪は俺より往人を選んだんだ。つまり、捨てられたんだ」
「そうなんだ。じゃあ、ボクが祐一君を選ぶよ」
そう言うと、パンッと胸の前で手を叩く。
「・・・・・・・・・・・・」
「わあっ、いきなりダッシュしないでよ!」
「冗談だ。あの2人は映画を見に行ったんだよ。俺は、その映画を見る気にならなかったから、一緒に行かなかっただけだ」
「何ていう映画?」
「ラブラブマシーン大行進!っていう映画だ」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・ボクも行きたい」
「・・・マジか?」
「行きたいよ〜」
「・・・いやだ」
「うぐぅ」
暫しの沈黙。
「・・・名雪さん、大丈夫かな・・・」
心配そうに、あゆがぽつりと呟く。
「・・・・・・・・・・・・しょうがない、行ってやるか」
「わーい!」
「だから抱きつくな!」
こうして、俺達は名雪と往人を追跡することにした。
別に、隠れてこそこそする必要はないのだが、なんとなく恥ずかしかった。
第6羽
と、いうワケで俺と名雪は今映画館にいる訳なのだが…。
「うぐぅ、祐一君〜。お腹減ったよ〜」
「後でいくらでもたい焼き食べさせてやるから我慢しろ。見つかるだろ」
まあ、後ろのほうで感じる気配にはあえて気付かないフリをしておいてやろう。
それが武士の情けというものだ。
最も、名雪は気付いてないみたいだが。
それはさておき一つ名雪にどうしても訊いておかなくてはならないことがある。
「そう言えば名雪たちはまだ冬休みじゃないのか?」
「うん。明日が終業式。そうしたらお休みになるよ」
ということは明日までは人形芸で稼ぐのはムリだろう。
なんせ商売相手である子供が学校行ってるんだから。
さて、どうしたものか…。
「あ、往人さん。そろそろ始まるよ」
気が付けば映画の開始時刻になっていた。
「往人さん、面白かったね」
「…そうだな」
タイトルに反して予想外に面白い映画だった。
アクションあり、笑いあり、涙あり。
世の中には見かけで判断してはならないものが多々あるんだという事を身を持って教えられた。
「じゃあ、ご飯食べに行こ」
きゅぴーん。と、音が出る程の目つきでそちらを見る。
「おう」
「往人さんは何が食べたいの?」
「うまければなんでも…」
いい、と言いかけたとき…。
「牛丼はかなり嫌いじゃない」
「俺もそれでいいぞ」
「私もそれでいいですよー」
「うん。じゃあ牛丼に決定」
「へい、お待ちっ!」
店員がどんっ、と威勢のいい音を立てて人数分の丼を置く。
同時に俺達は食事にとりかかる。
………。
……………。
…………………。
「っていうか、お前らは誰なんだ…?」
牛肉という甘美な響きに惑わされ、さっきは全く気にとめなかった疑問を口にする。
「名雪の知り合い…だよな?」
隣に座っている名雪に訊ねる。
「うん。川澄舞さんと倉田佐祐理さん」
それぞれを紹介する。
「で、こっちは国崎往人さん」
続いて俺の紹介もする。
「始めまして。倉田佐祐理といいます」
「………川澄舞」
「ああ、よろしく」
一方そのころ祐一とあゆは―――。