Kanon・AIRリレー小説第1集
とりあえず適当に進みます(笑)
お互いいい加減ですから。


第1話
ジリリリリ・・・
やれやれ・・・
けたたましく鳴り響く目覚し時計に手を伸ばし、
カチッ
止めるが・・・
ジリリリリ・・・
目覚し時計は鳴り響く。
別に俺の部屋に目覚し時計が2つあるわけではない。
「名雪のやつ・・・またか」
布団を出ようと思い、起き上がろうとして躊躇する。
くそ〜寒すぎるぞ〜
ジリリリリ・・・
仕方なく布団から出てカーテンを開ける。
シャー
・・・・・・・・・白い
空は透き通るような青だが地上は眩いばかりの白い雪に覆われていた。
一体何度なんだ?
外に掛けてある温度計に目をやると、
マ、マイナス10度・・・・・・・・・見なかったことにしよう。
布団の中で温めておいた服に着替え部屋を出る。
ガチャ、バタン
う〜・・・
廊下に出るとさらに寒さを感じる。
ジリリリリ・・・
相変わらず鳴り響く目覚し時計。
『名雪のへや』と書かれたプレートの掛けてあるドアをノックする・・・ことなく名雪の部屋へと入る。
ガチャ、ジリリリリ・・・
だあー、うるさい!
とりあえず、けたたましく鳴り響く、無数の目覚し時計を片っ端から止めていく。
はぁ、はぁ・・・これで最後か・・・
残るは、名雪の枕元に置かれた猫の目覚し時計だけだ。
ニャーニャーニャーニャー・・・
う〜ん・・・これは目覚し時計なのだろうか?逆に睡眠を誘う音ではないだろうか。
・・・まあいい。
ニャーニャーと気だるい音を発する目覚し時計を止める。
カチッ、よし。
「おい、名雪、起きろ朝だぞ」
「う〜ん・・・だおー」
「そうか、そうか、なるほど」
よくわからないが、気持ち良さそうなのでこのまま寝かせておくことにして、俺は1階へ降りた。
キッチンへ顔を出すと秋子さんが朝ご飯の用意をしていた。
「おはようございます」
「おはようございます。名雪は?」
「起こしに行ったんですけど、結局ダメでした。『う〜ん・・・だおー』だそうです」
「あら、そう。そうなの」
秋子さんはうれしそうに頷いた。
名雪の言った言葉に何か意味があるのだろうか?いや無いだろう・・・たぶん。

第2話
テーブルには塩鮭、卵焼き、肉じゃが、佃煮が並べられていた。
どれも本当に美味しそうである。
「はぐはぐ・・・」
「もぐもぐ・・・」
「はい、どうぞ」
秋子さんは、湯気の立ちのぼるご飯と味噌汁を運んできてくれた。
「いただきますって・・・卵焼きが無い!」
よく見ると、卵焼きだけではなく塩鮭も肉じゃがも佃煮までもが無くなっていた。
「はぐはぐ・・・」
「もぐもぐ・・・」
「・・・・・・・・・お、お前ら・・・」
目の前にはいつの間にやらあゆと舞がいた。
2人とも実に美味しそうに朝食をとっている。って、おい!
「はぐはぐ・・・美味しいよ、この卵焼き」
「そうか・・・美味いか・・・」
涙ながらにそう言う。
舞も美味しいと言いたそうに、頬を大きく膨らませて、俺の方を見つめていた。
「もぐもぐもぐもぐ・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「もぐもぐもぐもぐ・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「もぐもぐもぐもぐ・・・」
「う、美味いか?」
「むぐむぐ・・・」
「そ、そうか」たぶん美味しいと言ったのだろう。
で、俺のおかずは?
テーブルには、既に白いご飯と味噌汁以外、何も無かった。
いや、あるにはあるのだが・・・空のお皿が数枚だけ・・・
「ところで、何でお前らがここにいるんだ?」
「偶然通りかかったところを秋子さんに誘われたんだよ」
と満面の笑みを浮かべながら言うあゆ。
「本当に偶然か?」
「ほ、本当だもん・・・」
何か怪しい。
・・・・・・・・・?・・・なるほど・・・
「また、たい焼きを盗って来たわけか。それでここに隠れようと」
微かに、鼻腔をくすぐるこの香りは、間違いなくたい焼きである。
「盗ったんじゃなくて買ったんだよ!」
そう言うと羽根リュックから茶色い紙袋を取り出す。
「買ったという証拠があるのか?」
「うぐ〜、もう祐一君にはあげないもん」
そう言うとたい焼きを1匹、新たに作った料理を運んできた秋子さんに渡した。
「あら、美味しそうね」
「なるほど、秋子さんを共犯者にするつもりか」
「だから買ったんだってば!」
「秋子さんを味方につければ100人力だな」
「うぐ〜」
やはり、からかうと面白い奴だ。
「はい、川澄さんにも」
「舞も共犯者にするつもりか。舞は強いぞ〜」
「うぐ〜」
涙目になっている・・・そろそろまずいか・・・
「むぐむぐむぐむぐ・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・舞・・・口に入ってる物を食べきってからにしろ」
頬をいっぱいに膨らませた状態で無理やりたい焼きを詰め込もうとする舞を止めて、俺は朝食をとった。

第3話
朝食を終えて、2階に上がろうとした時だった。
ふと見えた庭の光景に、俺は思わず閉口した。
・・・・・・・・・何やってんだ?
庭にできた大きなかまくら。その中でこちらに向かって手を振る名雪と栞。
ガラッ
ガラス戸を開けると、凍てつくような寒さに思わず身震いをし、戸を閉める。
さ、寒すぎる・・・
2人を見ると、今度は手招きをしている。
そ、そうだ・・・
俺はガラスに、はぁ〜と息をかけて字を書くことにした。
寒いからヤダ
そう書いたが2人は訝しげにこちらを見ていた。
?・・・なるほど。向こうからは逆に見えるわけだ。
今度は向こうから読めるように書いた。
すると、名雪がかまくらから出て来て、白い雪に字を書き始めた。
あったかいからおいでよ!
はぁ〜、うそつけ!
ほんとだよ!
暫しお互いに睨み合っていると、突然目の前のガラス戸が開き、背中に圧力を感じた。
ぐはっ
俺は冷たい雪の上に、おもいっきり突っ伏した。
いって〜
振り向くと、したり顔の真琴が仁王立ちしていた。
「真琴!」
立ち上がり、真琴を捕まえようとしたが、鍵を掛けられ戸が開かなかった。
くそ〜・・・そうだ!
踵を返し、名雪の持つ木の棒を使って白い雪の上に字を書いた。
あけろ!さつむらきょうこ
ムッとした真琴はベーと舌を出した。
「どうあっても開ける気はなさそうだな」
「そりゃ、そんなこと書いたらダメだよ」と苦笑いの名雪。
「ほらっ、かまくらの中は暖かいから」
そう言われ、かまくらの中へ入ると確かに暖かかった。
「おはようございます」
「おはよう・・・寒くないか?」
「寒くありません」
満面の笑みでそう答えると、栞は美味しそうにアイスを1口食べた。
やっぱり寒そうだ。
俺は身震いし、中央に置かれた火鉢に手をかざした。
網の上では、餅が美味しそうに大きく膨らんでいた。
「はい、祐一」
名雪がその1つをお皿に乗せて渡してくれた。
俺はそれに海苔を巻き、醤油をつけて食べた。
「うん、うまい!」
「そうでしょう!」
「ところで、名雪は何を食べてるんだ?」
「肉まんだよ」
「1人だけ肉まんか?」
「これ1つしかないから」
・・・・・・・・・・・・そうだ!
「ちょっと貸してくれ」
「え?あ、ちょっと・・・」
名雪の食べかけの肉まんを取り、こちらを見ている真琴に向かって、美味そうに肉まんを食べて見せた。
さらに、ちらちらと肉まんを振って見せた。
すると、真琴は面白いように反応し、ガラス戸にベタッと張り付いた。
見てる、見てる、欲しそうに・・・クックックッ・・・
そして、肉まんを全て食べ終えた後、空の袋を逆さにして振って見せた。
真琴は悔しそうに地団太を踏んだ。
「わははははっ」
「う〜、祐一のうそつき・・・」
「うっ、すまん名雪・・・おわびにこの雪団子をやろう」
「そんなのいらないよ〜」
「なら、雪おにぎりだ」
「同じだよ〜」
「贅沢なやつだな〜」
「ただ雪を固めただけだもん・・・」
「これに海苔を巻いて、醤油をつけて食べるんだ」
「ま、不味そうだよ〜」
確かに不味そうである。
「それなら、このアイスに海苔を巻いて、醤油をつけたら美味しいかも」
そう言う栞に、俺達は顔を引きつらせた。
「冗談です」
だろうな・・・
「さて、そろそろ戻ろうかな」
「え、もう?」
「やっぱり家の中の方がいいからな」
そう言って、かまくらを出て、俺は眩い青空を見上げた。
空には飛行機雲が、長く続いていた。
と、いうことは・・・
消える飛行機雲〜♪追いかけて追いかけて〜♪
俺は、高原まで来た。
そこには、1人の少年が馬鹿でかいおにぎりを食べていた。


プロローグ(第1羽)
というか、何が楽しくてこの寒さの中にぎりめし食ってんだ、俺は?
心の中で自問自答を繰り返す。
とにかくこの街は寒い。
その気温がどれほどなのか、想像もつかなかった。
否、むしろ意識的に考えないようにしていた、というほうが正しい。
何か食えば気がまぎれる。
それが俺の考え出した結論だった。
が、それが間違いであることに気付くのにさほどの時間はかからなかった。
とりあえずこれを食ったら人の多いところへ行こう。
すでに前の街で稼いだ金は底をついている。
急いで金を稼がなければならない。
このままでは餓死以前に凍死してしまう。
そうなっては本来の目的どころの騒ぎではない。
だがここでもうひとつの問題に直面することとなる。
人気の多い場所といえば無論商店街であるが…。
「どこにあるんだ…?」
そもそもお金が足らず市街地に入る前にバスを降りるしかなかったのだ。
当然土地勘のない俺にはそれがどこなのか分からない。
食いながら思案していると背後に人の気配を感じた。
振り返ってみるとそこには俺よりやや年下であろうと思われる少年が立っていた。
なぜか訝しげにこちらを見ている。
…そらそうだよな。
こんな極寒の中でにぎりめし食ってるヤツがいれば俺だって奇異の目で見る。
が、これはまたとないチャンスだ。
「ちょっと聞きたいんだが、この辺で人の集まる場所って何処だ?」
少年は急に話しかけられやや驚いた素振りを見せたものの、すぐに答えてくれた。
「そりゃ商店街だろう」
ビンゴ。
きゅぴーん。と、音が出るほどの目つきでそちらを見る。
「どうやったら行けるんだ?」
「どうやったらって?」
「いや、ここには今着いたばかりでな。よく分からないんだ」
「観光か?」
「…ああ、そんなところだ」
実は迷子だとは口が裂けても言えない。
「ちょうど俺も行くところだから案内してやるよ」
「…助かる」

少年に連れられ商店街に向かう。
「遠いのか?」
「もうすぐだ。そこの角を曲がれば着く」
少年の言うとおり、角を曲がるとそこは商店街の入り口だった。
「悪かったな」
素直に礼を言う。
「気にするな。どうせついでだ。それじゃあな」
「ああ」
商店街へ消えていく少年を見送ると往人はその場に陣取った。
人の数はかなり多い。
これならかなり稼げるだろう。
ポケットから人形を取り出すとそれに念を送りはじめる。
すると不思議なことにその人形が動き出した。
まるで生きてるかのように。
「さあ、相棒。今日も頼むぜ」


第4話
「ただいま」
「おかえりなさい」
家に帰ると、ちょうど秋子さんが出かけるところらしく、靴を履いていた。
「出かけるんですか?」
「ええ、夕飯のお買い物に」
「俺が行って来ますよ」
「いいのよ、私が行ってくるから。それに、真琴が探していたみたいだったから」
真琴が?
「わかりました、家の方は任せてください」
「ええ、それじゃあ行ってきます」
「いってらっしゃい」
そんなやりとりをしていると、真琴がうれしそうに俺の方へやって来た。
両手は後ろに隠している。何か怪しい・・・
「お帰り、祐一」
「ただいま。俺を探していたみたいだけど、何か用か?」
「フッフッフッ・・・今私が何を持っているかわかる?」
「手榴弾だろ」
「そんなもの持ってるわけないでしょ!」
「いや、お前なら持ちかねない」
「ま、まあいいわ。じゃ〜ん!」
目の前に差し出された物は、何の変哲も無い中華まんだった。
「普通の中華まんにしか見えないが?」
不適な笑みを浮かべると、真琴はそれを一気に食べ始めた。
そして、食べ終わると、
「どう?参ったでしょ!」と言った。
「はぁ?」
何故参らなければならないのかよくわからなかった。
だが、次の行動でその理由がわかった。
真琴は、空の袋を逆さにして振って見せたのだ。
ようするに、今朝の仕返しのつもりなのである。
やれやれ・・・
「ああ、参った、参った。すげー参った」
「全然、悔しがってない!」
当然である。
俺は、手に持った紙袋から1つ肉まんを取り出して、
「今朝のお詫びだ」と言い、真琴に渡した。
「毒でも入ってるんでしょ!」
「よくわかったな。がぶっといけ、がぶっと」
「食べられるわけないでしょ!」
「まあ、それは冗談だ。何も入ってないから安心しろ」
「信用できないわよ」
ぶつぶつ文句を言いつつも、慎重に肉まんを食べようとしていた。
すると、
「なによこれ!中身が入ってないじゃない!」
「中身は俺が食べておいたからな。だから安心して外の部分を食べろ」
「いらないわよ!」と言いつつも、しっかりと外の部分を食べて見せた。
「すまん、今度はちゃんと中身が入ってるからな」
袋からもう1つ肉まんを取り出し、真琴に渡す。
「今度は大丈夫なんでしょうね?」
「ああ、味わって食えよ」
慎重に肉まんを食べ終えると、真琴は満面の笑みを浮かべた。
「あ〜、美味しかった!たまには祐一も良い事するじゃない」
「俺はいつも良い事してるぞ」
「うそに決まってるわよ!」
・・・まあ、いい。大事の前の小事である。
俺は、持っていた紙袋を真琴に渡した。
「ほら、あと2つ肉まんが入ってるから名雪と2人で分けて食え」
「ほんとに?やったー!」
嬉しそうに2階へ上がって行く真琴を見ながらニヤリと笑みを浮かべる。
クックックッ・・・馬鹿め!前の2つはダミーだ。
まずは安心させておき、警戒心を無くさせる。そして“名雪と2人で”これがポイントである。
真琴1人分であれば、前の肉まんがダミーだと気づかれやすくなってしまう。
考え過ぎか?
まさか、名雪の分まで大量のからしが入っているとは思うまい。
・・・・・・名雪、すまん!犠牲になってくれ・・・
仕方が無いのだ・・・俺から手渡せば怪しまれてしまう。
かと言って、1つだけからし入りにすれば、2分の1の確率で真琴がそれを食べないかもしれない。
2つからし入りにすれば完璧である。
さてと、テレビでも見るとするか。そう思い、リビングへ行こうとした時だった。
ぎゃあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ−−−−−−−−−−−ッッ!!!!
ゴロゴロゴロゴロコロゴロゴロ−−−−−−−ッッ!!
ズドンッッ!!
もの凄い悲鳴と音が2階から聞こえてきた。
「こりゃ、テレビなんて呑気に見てる場合じゃなさそうだな」
俺は戦略的撤退をはかることにした。


第2羽
「フッ。今日はこの辺にしといたる…」
俺は敗北感に苛まれていた。
確かに人はいる。しかも大量に。
だが肝心の子供がほとんどいない。
当然大人は人形劇など見向きもしない。
数人ではあるが子供が来たのは事実だ。しかし見向きもされなかった。
「相棒…。今日もいつも通り頼まれてくれたんだな」
結局はいつも通りの無残な結果に終わった。
「俺、死ぬかもな…」
涙を堪えながら、それでも未練がましく人形を動かし続ける。
と、その時。
「凄いわねぇ。一体どうやって動いてるのかしら?」
見上げるとひとりの女性が人形の動きに見入っていた。
しめた。まだチャンスはある。
というか、これを逃したらマジで死ぬ。
「それは本来企業秘密なんだがあんたには特別に教えてやろう」
ここで引き返されないよう、必要以上に人当たりの良い声で答える。
目論見どおり女性は微笑みながら聞いてくれている。
「これは法術で動かしているんだ」
「法術…?」
彼女の上に“?”マークが浮かんでいるのが見える。
そしてこれを聞いた人間が次にする質問は決まっている。
だから先手をうつ。
「法術というのは…」
「なるほどねぇ」
だが彼女は俺の答えを聞くまでもなく納得している。
…なんか変わった女だな。
だが、そんなことはどうでもいい。
俺にとっては見物人がこれを見てどう思うかは二の次でしかない。
肝心なのはここから先だ。
俺は人形に一通りの動きをさせると人形をしまい、立ち上がった。
「さて、これで俺の芸は終わりだ。見物料を払って貰えないか?」
回りくどいのは好きじゃないのでストレートにいく。
「そうだったわね。いくら払えばいいのかしら?」
「そら多いに越したことはないが…。」
「そうねぇ…」
言いながら財布を取り出す。
「所詮はただの大道芸だからな。気持ちばかりでいいぞ」
こういう時はあえて控えめに請求する方が結果として多く貰えるのだ。
「それじゃあ…」
そしてついに待望の瞬間を迎えたその時!

ぐぅ〜。

俺の腹が鳴った…。

ぐぅ〜。

しかも2回も…。
「…………。」
さすがに気まずい。
「…なるほど」
うっ。
何かに納得されてしまった…。
「じゃあ代金の代わりに夕食をご馳走するというのはどうでしょう?」
きゅぴーん。と、音がするほどの目つきでそちらを見る。
「マジか?」
「はい」
微笑みながら頷く。
確かに大道芸の見物料なんてたかが知れている。
現金で払ってもらったところで1人の客相手では夕食代にもならない。
ここは素直に彼女の提案に従うべきだろう。
まだ宿代が稼げていないがどのみちここではこれ以上稼げそうにない。
宿などは駅にでも行けば最低限の寒さで済むだろうし。
「よし、交渉成立だ」
「はい。ではこれから買い物に行くところなので付いて来ていただけますか?」
「ああ」
「リクエストはありますか?」
歩きながら訊ねられる。
「いや、特にない」
「そうですか。もしあるなら遠慮なく言ってくださいね」
「ああ」
「そういえば自己紹介がまだでしたね。私は水瀬秋子です」
丁寧に頭を下げながら言う。
「…国崎往人だ。往人でいい」
「往人さんですね。よろしくお願いします」
「…ああ、よろしく」

こうして俺は秋子さんの家で夕食をご馳走になることになった。

第3羽
「ここです」
秋子さんに案内され水瀬家の門をくぐる。
かなり大きな家だ。
「どうぞ、あがってください」
「ああ、邪魔する」
促され、家の中に入る。
「お母さん、お帰り」
「名雪、ただいま」
ダイニングに入るとひとりの少女が彼女を迎えた。
名雪と呼ばれた少女は俺に気付かずに話を続ける。
「思ったより早かったね」
「ええ、往人さんに手伝ってもらったから。あ、荷物はここでいいですよ。」
「ああ」
言われた場所に買ってきたものを置く。
「往人さん…?」
そこで初めて俺の存在に気付いたようだ。
「商店街で人形劇をしてたのよ。それが面白くてね。見物料の代わりに夕食をご馳走しようと思って」
「そうなんだ…。私は水瀬名雪です」
「国崎往人だ」
さっき秋子さんとかわしたやりとりをもう一度繰り返す。
「えっと、往人さん、って呼んでいいのかな?」
「ああ、好きに呼んでくれ。往人ちゃんでもいいぞ」
「うん。分かったよ」
…どうやら本気にしてしまったらしい。
「いや、じょうだ…」
「じゃあ、私のこともなゆちゃん、って呼んでくれていいよ」
……………。
「やっぱり普通に往人さんでいい。俺も名雪と呼ばせてもらう」
「…残念」
本当に残念そうだ。
「名雪、手伝ってくれる?」
キッチンの奥から秋子さんの声が聞こえる。
「あ、うん。今行くよ。じゃあ往人さんゆっくりしててね」
そういって秋子さんの手伝いを始める。
どうも秋子さんも名雪もどこかズレているようだ。
そんなことを考えながらテレビを見る。
ちょうど天気予報がやっている。
今夜は雪らしい。
(…やっぱ死ぬかもな…)
あのまま商店街で宿代を稼ぐまで粘るべきだったかもしれない。
どうせ稼げはしなかっただろうがな。
するといつの間にか鼻腔をくすぐるいい匂いがしてくるのに気付く。
その匂いにつられ、思わずキッチンへと向かってしまう。
「せ〜の…」
「ん?」
「真琴キ〜ック!」
「だあぁっ!」
がんっ!!
立ち上がった俺の背中に何者かの攻撃が加えられ、勢いよく壁に激突した。
「どう、祐一?私のキック。効いたでしょ」
「真琴…。その人祐一じゃないよ…」
「え?」
一体何が起こったのか分からなくなる。
だがそれも一瞬のこと。
状況が把握できると次に沸く感情は怒りだ。
しかしここで怒鳴るワケにはいかない。
つとめて冷静に対処する。
せっかくの食事を逃すことになりかねないからな。
「あはは。痛いじゃないか…」
「名雪、コイツ誰?」
その少女は俺を無視して名雪に話を振る。
「往人さん。お母さんが連れてきたの。晩御飯をご馳走するんだって」
「ああ。ナゼかそういうことになってな。お邪魔させてもらっている」
「あ、そ」
むかっ。
何だ、コイツの傍若無人な態度は?
秋子さんや名雪とはえらい違いだ。
「なあ、真琴とやら」
「何よ?アンタ何で私の名前知ってんのよ?」
「そう呼ばれてただろ」
「で、何よ?私はアンタに話なんかないわよ」
「俺だってない。ただお前は俺に言うことがあるだろ」
真琴はなんのことか分からないって顔でこちらを見ている。
「謝れ」
「何でよ?」
…マジでムカついてきた。
「あっ、あそこにいるの誰だ?」
俺がたまたま表を歩いていた人物を指差して言うと、真琴を含めその場にいたすべての人間の視線がそいつに集まった。
そのスキをついて真琴の頭を叩く。
「あうっ」
バシッ、と小気味良い音がした。
「あれは祐一さんですね」
秋子さんが答える。
「知り合いなのか?」
「祐一は私のいとこでこの家で暮らしてるんだよ」
そういえばさっき真琴が祐一って言ってたな。
「…ア、アンタ何してくれんのよっ!」
今まで急な痛みに頭を抱えていた真琴が怒りをあらわにする。
「痛いじゃない!」
「何のことだ?俺にはさっぱり分からないが」
「アンタが私の頭叩いたんでしょうが!」
「はぁ?俺がいつお前の頭叩いたんだよ?」
「たった今!バシッって音がしたじゃない!」
「証拠はあるのか?俺がやったという確固たる証拠が。お前は俺が叩いたトコ見たのか?」
「見てないけど…。でもアンタ以外に誰がやるのよぅ」
「確かにな。でも誰も見ていないんだから証拠にならねえな。立件は不可能だ。諦めろ」
「あぅ〜」
そう言ったきり、真琴はすっかり黙ってしまった。
ちょっと大人げなかったか…。
「祐一、お帰りっ」
「ああ」
そうこうしていると祐一という人物が帰ってきた。
「見慣れない靴があったが誰か来てるのか?」
「うん、国崎往人さん。お母さんが連れてきたの」
「秋子さんが?」
言いながら俺のほうを見る。
「…あ」
「…あ」
二人の声が重なる。
「お前さっきの巨大おにぎりマンじゃないか」
まさかさっき道案内してもらった人物だったとは…。
世間ってのは意外と狭いもんだな。
「っていうか、巨大おにぎりマンって呼ぶな」


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