Kanon・AIRリレー小説第2部
…えっと、まぁ色々謝りたいんですが
とりあえずちゃちゃっと4年前の原稿の曝しです(笑)
なお、最後に第2部スタート分の後書きがあります。
そこは読んでくれないと色んな意味で俺が泣きます。
だって…ねぇ?
心地よい風・・・
まるで、空を飛んでいるような感覚・・・
このまま、本当に空を飛ぶことが出来たら・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
くしゅんっ!
「・・・さ、寒い・・・」
目を開けると、雲一つ無い青空。
地上は・・・辺り一面、白い雪。
こんなところで、俺は一体何をしているのだろう・・・
遥か先に見える、隣町を眺めながらそう思った。
ここは、ものみの丘。
秋子さんが囚われている場所である。
一体、どうしたら救うことができるのだろうか・・・
全くわからない。
ここに来れば、何かわかるような気がするのだが・・・
答えは見つからない。
よし・・・
「肉まんを食おう」
ガサガサとコンビニの袋から肉まんを取り出して、口に運ぶ。
はぐっ・・・
「うぐぅ、うまい・・・はっ・・・しまった!つい、あゆの口癖を言ってしまった!」
・・・何やってんだ?俺は・・・
「・・・虚しい・・・」
自分の思考回路に呆れてしまう。
肉まんを食べきり、空を見上げると、長い飛行機雲が伸びていた。
長い長い飛行機の軌跡。
ゆっくりと消えて行く・・・
ふと訪れた風が、何故か心地よかった。
なだらかな丘陵を下って行く、風の行方に目を細める。
そして、MDを再生させる。
カチッ
飛行機雲を見ると、妙にこの曲が聴きたくなる。
鳥の詩。
しばらくの間、この曲を聴きながら、輝く空を眺めていた。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
曲が終わり、暫くその余韻を味わう。
やっぱりいい曲だ・・・
思わず歌ってしまったし・・・まあ、誰も聴いていないからいいけど。
「さて、帰るか」
もう一度空を見上げると、一枚の白い羽根が舞い降りてきた。
ふわり、ふわりと左右に揺れながら、ゆっくり降りてくる。
そっと手のひらを差し出すと、その上に乗った。
「・・・うぐぅ・・・・・・なんでやねん!」
ぐはっ・・・ダメだ・・・俺・・・
羽根に反応して、あゆの口癖を言ってしまった。
よし、これはあゆにあげるとするか。
そう思い、振り返ると、そこには見知らぬ少女がいた。
だが、全く関係無いとも思えなかった。
彼女が着ている制服。
それは、初めて会った時、佳乃と遠野さんが着ていた制服と同じだったからだ。
ブロンドの長髪を白いリボンでポニーテールにし、ニッコリと微笑んでいた。
「にははっ・・・」
俺も微笑んだ。
すると、彼女は拍手をしだした。
パチパチパチッと辺りに響き渡る。
な、何だ?・・・一体・・・
「歌、うまかった」
「はい?・・・ぐはっ・・・聴いてたの?いつから?」
「最初から」
ガーン・・・聴かれていた・・・しかも、最初から・・・
でも、『うまかった』と言ってくれたのだからいいか。
「ところで、何でこんなところにいるんだ?」
「う〜ん・・・なんとなく・・・」
「は、はあ・・・」
「そう言うあなたは、何でこんなところにいるのかな?」
「う〜ん・・・なんとなく・・・かな・・・」
「にははっ・・・一緒だね」
「そうだな・・・なあ、ひょっとして・・・佳乃か遠野さんの知り合い?」
「え?遠野さんを知ってるの?」
「ああ。色々あってな」
「そうなんだ」
「今から帰るところだけど一緒に来る?今なら家にいると思うし」
「え?・・・えーと・・・い、いいです・・・これから用があるので・・・」
そう言うと、彼女は慌てて走り去っていった。
「あっ・・・名前・・・」
そのことに気づいた時には、もう誰もいなかった。
まあ、いいか・・・遠野さんに訊けばいいんだ。
俺はその場を後にした。
「まったく、見事なもんだな…」
「そうかな…」
それを聞いた名雪は照れたように笑う。
名雪の法術は凄まじいスピードで成長していった。
とは言え、名雪の術は秋子さんや舞とは異なった形質で、俺と同じ人形などを動かすものでしかないが。
「よし、これでお前も正式にはぐれ人形使い2号さんだ。胸を張っていいぞ」
「はい、よかったで賞」
と、遠野はすばやくお米券を取り出す。
「にゅおぉ、名雪、いいなぁ〜」
「じゃあ、みちるにも」
「やったぁ〜」
「…え、えっと…」
名雪はまだこの二人のペースになれてないようだ。
「ただいま〜」
ちょうど真琴が保育園から帰ってきたらしい。
うるさい足音とともにリビングに顔を出す。
「ねぇ、秋子さんは?」
「お母さんなら2階で掃除してるよ」
「そ、ありがと」
そっけなく返事をして2階へ上がっていく。
「…いつもいつもやかましいヤツだな…」
「うん。でもそれが真琴らしいんだけどね」
「ただいま、と」
真琴と入れ違いに今度は祐一が帰ってきた。
「………どうかしたの、祐一?」
怪訝な表情をしている祐一をみて名雪が訊ねる。
「…いや、さっきものみの丘でな…女の子に会ったんだよ」
「ふぅん。それで?」
「それがな、逃げられた」
「おおかた人形劇でもしようとして失敗したんだろ」
「往人…。せっかくの捨て身の攻撃だが俺は痛くも痒くもないぞ」
…俺は痛かった。
「祐一がなにか言ったとか?」
「別に。ただ変わった子だな、とは思ったけど」
「どんな子だったの?」
「長い髪の毛を白いリボンで束ねてた」
「う〜ん。それだけじゃあ分からないけど、この辺じゃ見かけない感じだね」
「あ、そう言えば遠野さんや佳乃が前着てた制服着てたぞ?」
「…何だと!?」
あまりにも特徴が観鈴に似すぎている。
「何だ?…あ、やっぱお前らの知り合いだったのか?」
……………。
「往人、どうかしたのか?」
「…いや、なんでもない。俺はそんなヤツ知らないが」
「…あの…くにさ…」
す、と俺は遠野を手で制する。
「…ちょっと出てくるわ。遠野、ついてきてくれるか?」
「…はい。みちる、ちょっとここで名雪さん達と遊んでてね」
「え〜っ、みちるも行きたい」
「いい子だから、ね」
優しい母親のように諭す。
「…うん、わかったよ。でもテゴメにされないよう気をつけてね」
バコッ!
「にゅおっ!」
例のごとくみちるの頭をはたく。
「いちいち余計な事言わんでいい。…行くぞ、遠野」
途中の自販機で缶コーヒーを買い、俺達は公園まで来ていた。
「遠野…。観鈴は今どうしてる?」
…祐一の話から察するにそいつは観鈴に間違いない。
「…分かりません」
と、ある程度予想してた通りの答えが返ってきた。
「あの夏休みが明けて数日のうちに神尾さんは引越されましたから…」
「…どこへ?」
「それも分かりません。担任の先生も何もおっしゃられなかったので…」
「もう一つ。俺があの町を出てから観鈴におかしなところはあったか?」
「…?…いえ、特には…」
「…そうか」
「すみません。あまりお役に立てなくて…」
「いや、それだけ分かれば充分だ。それとな、遠野。観鈴に会っても会話したりしないようにしれくれ」
「…え?」
普段あまり感情の表に出ない遠野にあきらかな困惑の表情が出る。
…当然だろうな。なんせ友達を無視しろって言ってるんだから。
「…理由はそのうちに話すから。ムチャな事を言ってるのは分かってるが今は俺の言う事に従ってくれ。それに、今はそれが一番アイツのためになるんだ」
「……………。分かりました。国崎さんを信じます」
「すまない。感謝する」
「でも、いつか絶対話してもらいますから」
「ああ、約束する」
「…はい」
俺はとりあえず遠野を先に帰し、ぶらつくことにした。
考えたい事があったからだ。
…観鈴は…とりあえずは元の体に戻ったのだろう。
異変がなかった、とはそういう事だ。
なぜなら…遠野は観鈴の体の異変を知らないから。
ならば遠野から見て変わりがないというのはその証拠となる。
そして、観鈴が引越した理由はおそらくそこにある。
観鈴は俺を通して遠野やみちると面識を持つようになった。
あのまま接し続けると今度は遠野たちに被害が及ぶ。
それを危惧して引越したのだろう。
しかし事態は何一つ好転してはいない。
それどころか最悪の事態を先延ばし…いや、むしろ物凄いスピードでそちらへ向かっているのかもしれない。
それなのに、俺はまだアイツに会うことはできない。
会ってやらなければいけないのに、会うことはできない。
今俺にできることは…何も知らないふりをすることだけ。
それもこれも俺が不甲斐ないせいだ…。
「あら、往人さん。お仕事ですか?」
奇遇にも買物帰りらしい秋子さんとばったり出会う。
「…まあ、そんなトコだな」
秋子さんに話すことでもないので観鈴のことは黙っておく。
最も、なにかを隠してもこの人はすぐ見抜いてしまうのだが。
「そうですか。すみませんが良かったら荷物持ってくれませんか?ちょっと買いすぎてしまって」
「ああ」
俺は秋子さんから荷物を受け取る。
「そうです。往人さん。明晩空いてますよね?」
「…そら空いてるが」
「実は真琴の働いてる保育園でお楽しみ会というのがあるんですが、そこで人形劇をすることになりまして」
「ほう、それで?」
「それで私と名雪と往人さんと舞さんの法術で人形劇をします」
「つまり名雪のデビュー戦なわけだな」
「はい」
「で、俺もやるのか?」
「はい、アルバイト代も出ますよ」
きゅぴーん!と音が鳴るほどの目つきでそちらを見る。
「引き受けた」
「ありがとうございます」
翌晩―――
「あ、もう入口で待ってる」
真琴が保育園の門の前に立ってる人のところへ走っていく。
遠くてよく見えないが同僚の保母さんだろう。
「みんな〜、急いで〜っ」
一足早く着いた真琴が大声で呼ぶ。
「そうね、急ぎましょう」
「うん」
秋子さんの声に従い俺達も小走りに目的地へ向かう。
「…ったく、普通こういう時はもっとはよ来て準備するもん違うんかい」
到着すると同時にその保母さんにそう言われる。
「すみません。準備に時間がかかってしまって」
秋子さんが謝る。
「ええって。とりあえず時間には間におうとるしな」
その人は笑いながらそう答えた。
……………。
「まさか…晴子!?」
「…は?………あんた居候か!?うわ、奇遇やなぁ!偶然って恐ろしいわ。これもウチとあんたの運命やったんやな〜!」
「…そういう誤解招く言い方はよせ」
「くっ・・・やっぱりダメか・・・」
何度攻撃しても、手応えが全くない。
俺は唇を噛み締め、前方に浮かぶ黒い立方体を見据えた。
「焦らないで。チャンスはあるから」
そう言うと、舞は黒い立方体に背を向け、再び剣を構えた。
「な、何だ?どうしたんだ舞・・・」
その時、突然、背後に殺気を感じた。
振り向くと、舞は見えない敵に向かって走り出していた。
「祐一は、そっちをお願い」
・・・そっち?・・・
「『そっち』ってどっちだ?」
「上!」
「上!?」
何の気配も感じなかったが、とりあえず素早くその場を離れた。
その瞬間・・・
ドガッ!
さっきまで俺の居た地面がえぐれた。
「マ・・・マジか・・・」
未だに気配を感じない。
見えないうえに、気配も無い相手と、どう戦えばいいのだろうか・・・
「ま、舞!どうやって戦えっていうんだ!」
「集中して!」
集中しろって言われても・・・
ガッ・・・
「ぐはっ・・・」
集中する間もなく、見えない敵の攻撃が脇腹を直撃した。
2、3歩よろめいた後、俺は冷たい地面に倒れこんだ。
「く・・・くそ・・・」
脇腹を抱え、痛みを堪えながら、意識を集中すると、微かに敵の気配を感じることが出来た。
「や・・・やったぜ・・・」
だが、絶望的だった。
敵の気配が、すぐ頭上にあったからだ。
・・・動けない・・・
以前は、確か往人が助けてくれた・・・
「お〜い・・・往人〜」
そう言えば、今日は、真琴の働いている保育園で人形劇をやるだったな・・・
舞も行かなきゃいけないのに・・・
ここまでか・・・
そう思った瞬間。
ザンッ!
頭上にあった敵の気配が消えた。
「祐一、大丈夫?」
舞が顔を覗き込んで来た。
「ああ、なんとか・・・。集中したら、少しだけ敵の気配がわかったぜ」
「よかった。祐一に任せたかいがあった」
「・・・ん?それって・・・俺の為にわざと強い相手と戦わせたってことか?」
「・・・そういうことにしておく」
「おい!死んだらどうするんだ!」
「大丈夫。祐一は頑丈だから」
・・・・・・・・・
喜んでいいのだろうか・・・
「そ、そうだ。舞、早く保育園に行くぞ」
「・・・私、子供じゃない」
「アホ!通うんじゃない。人形劇やるんだろ?」
舞はこくりと頷いた。
「忘れてた」
「今日は、もう何も出ないのか?」
舞は、不気味に浮遊する、黒い立方体を見据えながら頷いた。
「じゃあ、保育園に行くぞ」
俺達は、ものみの丘をあとにした。
「つ、着いた・・・」
「・・・でも、もう終わってる・・・」
「・・・そうだな・・・」
必死の疾走も虚しく、劇は既に終わっていた。
部屋の中には、名雪達が残っていた。
「うっ・・・酒臭い・・・」
よく見ると、一升瓶を持ったおばさんが関西弁で騒いでいた。
「こんな所で酒飲んでいいのか?」
おばさんは、俺を見ると、
「ええねん、ええねん。一緒に飲もう」
そう言いながら、笑った。
「おい、名雪。このおばさんは誰だ?」
ガスッ!
おばさんが俺の頭を殴った。
「誰がおばさんやねん!」
「じゃあ、何て呼べば・・・」
「晴子さんや!晴子さんって呼び」
「は・・・はあ・・・」
何なんだこの人は・・・
名雪に訊くと、ここの保母さんとのこと。
嘘だ・・・こんなのが保母さんなわけない・・・
「ところで、往人はどこに・・・」
「ああ、あの役立たずの居候のことかいな」
「役立たずの居候?」
その時、名雪が苦笑いを浮かべながら言った。
「以前、晴子さんの家に泊まってたんだって」
「へえ〜・・・それで、往人は?」
「人形劇をやったんだけど・・・往人さん上手くいかなくて・・・それで・・・」
そして、部屋の角を指差した。
「ゆ・・・往人・・・」
往人は、こちらに背を向け、体操座りをしていた。
しかも、周りからどんよりとしたオーラを発している。
恐い・・・恐すぎる・・・
よっぽどショックだったのだろう。
かける言葉もない。
「ほんま、秋子さんと名雪ちゃんがいてくれて助かったわ〜」
「は、晴子さん・・・それ以上言ったら、往人さんがかわいそうだよ・・・」
「なんや、名雪ちゃん。往人に惚れとるんか?」
名雪は頬を赤くして俯いた。
「べ、別にそんなことは・・・」
「あかん、あかん、やめとき。人生棒に振るで」
往人の方を見ると、何の反応もない。
恐る恐る近づいてみると・・・
「ぐはっ・・・お、おい・・・往人・・・」
往人は白目を剥いていた。
恐い・・・恐すぎる・・・
これほどまで、ダメージを受けていたとは・・・
「にゃはは・・・往人のヤツ、子供達からブーイングの嵐を受けたんだよ〜」
みちるちゃんが楽しそうに言った。
「そ、そうなんだ・・・」
そっとしておいてやろう・・・
「さあ、もう帰りましょうか」
秋子さんが立ち上がりながら言った。
「なんや、もう帰るんか?よっしゃ、秋子さんの家に行って飲むで」
「了承」
「・・・・・・・・・」
相変わらず早い。
何も言わせてもらえなかった。
「さあ、行くで〜」
晴子さんは、張り切って外に出た。
「往人さん帰るよ」
名雪が呼ぶが、返事がない。
名雪は腕捲りすると、ズルズルと往人を引っ張って来た。
「しゃあないやっちゃなぁ〜。ここに乗せ」
晴子さんは、そう言いながら、バイクの後ろをバシバシと叩いた。
・・・それは飲酒運転だろ・・・しかも、意識のない人間を、どうやってバイクの後ろに乗せて走るのだろう・・・
「あらあら。晴子さんダメですよ。お酒を飲んで運転したら」
その疑問を打ち消すように、秋子さんが優しくたしなめた。
「ええねん、ええねん。いつものことやし」
・・・よくないだろ・・・しかも『いつも』って・・・
「私が運転します。お酒飲んでないですし」
全員が目を丸くした。
秋子さんが運転・・・
「秋子さん運転免許持ってたんですか?」
「ええ、持ってますよ。ペーパーですけど」
・・・それは、やばいのでは・・・
そう思っている間に、秋子さんはヘルメットを被ってバイクに乗っていた。
晴子さんは、紐で往人と秋子さんをぐるぐる縛った。
「そんなんでいいのか!」
「ええねん、ええねん。細かい事は、気にせんでええねん」
・・・・・・・・・もう何も言うまい。
「居候!しっかりせんか!」
バシッ!
と、晴子さんの平手打ちをくらって、往人は意識を取り戻した。
「・・・ん?・・・な、何だ?・・・」
往人は、辺りをきょろきょろ見まわした。
「それでは、行きます」
ブロロロロ・・・
エンジンがかかり・・・そして・・・
ブロロロロロローーーーー!!!!!
「ぬあああああぁぁぁーーー!!!」
往人の悲痛な叫びと共に、二人は風になった。
・・・・・・・・・
「さ、さあ・・・私達も帰らなきゃ」
名雪が顔を引き攣らせながら言った。
「そ、そうやね・・・行こか・・・」
晴子さんの酔いも、すっかり覚めてしまったようだ・・・
「なあ、往人の意識が戻ったんなら、わざわざバイクに乗せる必要なかったんじゃないのか?」
・・・・・・・・・
俺達は、何も言わずに歩き出した。
「…なぁ、居候。あんたまだ時間かかるんか?」
俺と晴子を残し、すでに他の人間は眠ってしまっている。
「……どうだろうな。ココに来てそれなりの手ごたえみたいなものは掴みかけてるんだが…」
「…そか。あの子んことまだ気にしてくれてるんやな」
「…当たり前だろ。何のために俺がお前らの前からいなくなったと思ってるんだ」
「そやな。おおきに」
そう言うと晴子はコップに残った最後の一口を飲み干す。
「実はな、観鈴もがんばってるで。最近友達できたみたいや。毎日その子と遊んどるみたいやで」
「…大丈夫なのか?」
「ん、正直大丈夫やないな。いつも帰ってくると同時に大泣きや。痛々しくて見てられん…」
「…………」
やはりあの時から何一つ好転してはいない。
「でもな、あの子はあの子なりに頑張っとる。ウチにはどうすることもできんけど…」
「そんな事ないだろ。晴子がいるだけでアイツはかなり助けられてるハズだ」
「…ならええけどな」
自嘲気味に笑う。
晴子も辛いんだろうな。
苦しんでる観鈴に対しただ見てることしかできないんだから。
「ただな、あの子の友達のほうも心配や…。観鈴があの調子やってことは、その友達にも影響が出るかもしれん」
…確かに。
俺の時もそうだった。
「居候…やっぱ最後は…」
晴子が一段と真剣な目でこちらを見据える。
「往人…アンタの力が必要なんや」
「…ああ、分かってる。何の因果か知らんがお前らのほうから俺に近づいてきたんだ。ここで全て終わらしてやるよ」
それは…揺ぎ無い決意。
声に出す事でその意志は確固たる物になる。
「…頼んだで…」
その言葉を最後に晴子は観鈴の待つ家へと帰っていった。
いつものようにバイクの音を響かせて。
「往人さん…」
「…やっぱ起きてたか」
晴子を見送っていた俺の後から話しかけてきたのは当然秋子さんだ。
「秋子さん、聞いてもらいたい話がある。舞と名雪を起こしてきてくれないか」
「分かりました。名雪を起こすのはちょっと時間がかかるかもしれないですけど」
例の仕種で答える。
再び玄関に消えていった秋子さんの姿を確認してから、俺はなんとなく空を見上げる。
土地柄のせいか、それとも空気が澄んでいるせいか、普段より星が輝いているような気がした。
なんとなくいつもより空が低く感じられた。
思わず手を伸ばしてみるが、当然届く訳もない。
「…辿り着かないとな、あそこに」
俺は空に向けた手を一度ぐっと握り締めるとリビングへと向かった。
数分後、リビングに4人の法術師が集まった。
俺はあの夏、観鈴との間に起きた出来事を全て話す。
普通なら誰も信じようとはしない話だ。
だが、それぞれ使命が違うかもしれないがここにいるのは間違いなく同じ力を持つ人間である。
話をしたところで何が変わるという訳でもない。だが話をしておくべきだと思った。
「…という訳なんだ。俺はこの機会に全て終わらせたいと思う」
「…でも具体的にはどうするの」
名雪が当然の疑問を口にする。
「わからん。だがそんな事を言ってる場合でもないんだ。とにかくアイツを助けたい。それだけだ」
「いいんじゃないですか、それで」
秋子さんが同意をしてくれる。
「現状では私達にもその観鈴ちゃんを助ける方法は分からないですし、焦っても仕方ないです」
「…………」
舞はただ黙っているだけだが、まあコイツは無口だからな。それに言わんとしてることもだいたい分かる。
「…まあ、そういう事だ。またさらに色々手を焼かせることになるかもしれないが…」
そろそろ時間も遅い。俺は話を締めくくる。
「大丈夫ですよ。往人さんは往人さんにできることをしてください」
「そうだよ。手伝えることがあったら遠慮なく言ってよ。同じ仲間なんだから」
「…私も手伝う…」
3人ともさも当然というように協力を申し出てくれる。
「…ああ、すまない。感謝する」
観鈴を助けるために…そしてこの人たちの優しさに報いるためにも頑張ろうと思った。
そんなワケで4年前の原稿を引っ張り出してきました。もう何が何やら。基本的にはこのページを読んでいる人の中に俺の姿形・キャラを知っている人は2〜3人しかいないので、曝しと言っても被害は小さいか?この件についてのトイメンでの尋問は一切不可とする。したら雨の降る日に山に埋めるのでそのつもりで。え〜え〜、どうせキャラにあってない展開してますよ(笑)
で、本題。4年越しとはいえ希望者が出た以上はやってやろうと。できる限り期待には答えて行こうというのがスタンスなんで。もちろんヒマだったという理由もあるけどね。多少の加筆修正をしたけれど、4年前の原稿をほぼそのまま使ってます。修正した部分に美凪が水瀬家居候化とかいうネタもあったんですが、さすがにそりゃやりすぎだろうと思ってカット。こえーこえー。ていうか、そこまでやったらもう何でもアリになっちゃうし、収拾つかなくなりそうだから。…えっと、原稿というか、俺とKの間で交換されている時は最低限の見直ししかしてない(誤字・脱字)ので、展開が多少強引な時があるんです。こうして表に出す時にあまりにヒドすぎる展開を修正しているだけで、基本は大体適当なんです。
しかもさ、この最後の話を書いたのは俺なんだけど、手もとの原稿のサブタイトルには「〜明日の夢(前編)〜」ってあるんだよね。でもどれだけ探しても後編が見つからない。なのでそのまま1話分としておきました。本当は最後に「翌日。俺は例のごとく商店街へと出向いた。」というくだりで締めてあったんだけど、どう続いてたのか分からない(そもそも続きを書かずに放置したのかもしれない)のでその部分もカット。どのみち、一度まっさらにしておいたほうが新規で書くのに都合良いし。
…さて、とりあえずこうなると続きを書いていかないといけないワケなんだが、どうなることやら。大体4年前は俺の中でシリアス展開がブームだったんでこんなカンジになったけど、今書いたら多分コメディに走ると思う。ヘタしたら草野球編とか始まりかねない(笑)。少なくとも結末の着け方を思い出すまではダラダラした展開を続けることになるでしょう。俺の基本スタイルは「数打ちゃ当たる」。そのダラダラから何か閃くかもしれないので。
ちなみに第2部は俺が一人でやっていきます。Kが書きたいというなら話は別だけど、今更書く気もないだろうし。まぁ俺としてはKのが上手いと思うんだけどねぇ。大体、当時負けたんだよ、俺は。で、そのままじゃ悔しいんでオリジナルの謎小説書いたりして…ね。
更新頻度はかなり遅いと思いますが、一応はきちんと完結させるつもりではいますんで、長い目で見てやってください。なお、感想・意見・ツッコミ・ネタ提供・その他ご指摘なども受付中。メールでも掲示板でも良いのでよろしくお願いします。