世界迷作劇場


現代の不夜城、新宿は歌舞伎町。
時は2000年の暮れ。
ミレニアムとクリスマスの雰囲気に沸く街の片隅に一人の少女が佇んでいた。

世界迷作劇場 第一弾
マッチョ売りの少女

「あの…マッチョ買ってください」
少女はいつものように道行く人々に声をかける。
しかし、その声に反応してくれる人は誰一人としていない。
…当たり前である。
この平成大不況のさなか、誰が好き好んでマッチョなど買うというのか?(注1)
そもそもマッチョは大飯ぐらい。そのうえ毎食事ごとにプロテインを投与しなければならないのだ。
しかもメンタル的に打たれ弱い傾向が高く、ちょっとした事で落ち込むシャイボーイ。
何の因果か、少女の扱うマッチョには特にそのタイプが多い。

「…はぁ、やっぱり売れないわね…」(注2、注3)
こんな事に慣れつつある自分が情けない。思わず顔を地に向けてしまう。
「お嬢さん、顔をあげてください」
マッチョA(仮名)が少女に声をかける。
「うるさい。ダマれ」
…実は少女とマッチョ軍団(これまた仮名)の間には絶対的な服従関係が成立している。(注4)
少女に逆らう事のできないマッチョ軍団は言われたとおり、黙ることしかできなかった。
「はぁ…しかしなんて言うか…」
少女は顔をあげ、周囲を見渡しながら言葉を続ける。
「ミレニアムだかクリスマスだか知らないけど盛り上がりすぎだっちゅーの(注5)
 こっちはどうにかして金を作らないと年も越せないってのに…」
もはや少女の怒りのボルテージは最高潮に達していた。
空気を読むことに長けていたマッチョB(当然仮名)はすかさず少女をなだめようとする。
「落ち着いて下さいよ、お嬢さん。時間ならまだあり…」
「うるさいって言ってるでしょ…」
少女は静かな口調でマッチョBの言葉を遮った。
彼はその口調から鋭敏にただならぬ雰囲気を感じ取り、そして自分の一言が彼女の神経を逆なでしてしまったことに気付いた。
だがそれに気付いた時、すでに全ては終わってしまっていたのだ…。

少女は不敵に笑うと、こう言った。
「それにしても寒いわね…。火でも点けて暖まろうかしら」
そして水筒を取り出すと、中に入っていた液体をおもむろにマッチョBにぶちまけた。
「うわっ、冷たい!何するんですか!?」
少女はその声を無視し、ポケットから取り出したマッチに火を点ける。
ジジッ、という音と共に、一瞬硫黄の匂いが立ち込めた。
そしてそのまま、火の点いたマッチをマッチョBに向かって投げつけた。
マッチが彼の足元に落ちると同時に、彼は炎に包まれる。
…そう、さっき少女がぶちまけたのはガソリンだったのだ!!(注6)
「あはははは!燃えろ!燃えてしまえ!!そして全てを焼き尽くしてしまえ!!!」
「ぎぃやぁああぁつっれれおものっふはなぃぃぃっ…」
炎に包まれたマッチョBは声にならない声をあげながらのたうちまわり、そしてそのせいで周りのゴミなどに次々と引火してゆく。
周囲は一瞬にして火の海となった。
脂肪の焼ける匂いが鼻をつんざく。
笑いながらその光景を見入る少女の瞳は完全に狂気の色に支配されていた…。

ウーウーウー…。
ピーポーピーポー…。

マッチョBが動きを止めて数分後、遠くから消防車とパトカーが近づいてくる音がしてきた。
「ちっ、意外と早いわね…。この時期は『密着24時』(注7)の取材で連中も浮き足立ってると思ったのに…。まぁいいわ。アンタたち、逃げるよ!」
残ったマッチョにそう声をかけ、少女は走り始める。
マッチョたちもしぶしぶそれについていく。

少女とマッチョ軍団は近くの公園まで逃げてきた。
乱れた呼吸を整えるため、休憩することにする。

「ふぅ…。それじゃ、今日はもう終わりにして帰りましょう」
数分後、少女はそう言って家へ帰るため立ち上がった。
アンタたちはかってにしなさい、とばかりにマッチョ軍団に背を向けて歩き出す少女。
その瞬間だった。
マッチョAは少女の背後に渾身の一撃を叩き込んだ!
少女は完全な不意討ちになす術もなく吹っ飛ばされた。
マッチョの本気の一撃に、さすがの少女も立ち上がる事ができない。
「アンタ…一体何のつもり?」
しかしその状況でも、少女は微塵も臆する気配がない。
地面に倒れたまま、少女はマッチョAを睨みつける。
他のマッチョたちは固唾を飲んで二人の動向を見守っている。
「あの時の事は今でも忘れません。感謝もしています」(注8)
「ならこんな事していいと思ってるの?」
「お嬢さん…。今のあなたはあの時とはすっかり変わってしまった。…もうついていけません」
「そう。…ならかってにすれば」
この瞬間、服従関係は解消された。

…その日、深夜の公園に少女の悲痛な叫びがこだました。

一年後。

マッチョ軍団は自らの犯した罪(注9)と、結局少女への忠誠心を拭いきれなかったのか、少女の犯した罪を庇い、終身刑が確定。
現在は刑務所に服役中。それでも少女のもとにいた時の生活よりマシ、と幸せに暮らしているらしい。
実際心優しい彼らは模範囚として近いうちに釈放されるだろう。

一方、少女はあの日のできごとをきっかけにマッチョ売りから花売りにジョブチェンジ。
しかも人気ナンバーワン。
本拠地を吉原に移した今、彼女の右に出るものはいないほどだ。
おかげでお金持ちになった彼女も、やはり幸せに暮らしているらしい。

おわり。

注釈
注1:好況でも買わないと思うのだが…まぁ、そういう設定だし…
注2:当然だ、というツッコミはこの際勘弁してください
注3:ていうか、誰が黒ビキニパンツ一丁で練り歩くマッチョ軍団に近づくのさ?…そうか、ヤツらか!あの双子だ!!
注4:この関係の成立には涙と笑いの一大スペクタクルストーリー(全28巻)があったのだが、今回は端折ることを予めご了承下さい
注5:この頃はまだパイレーツが活躍していた。…あれ、もうすでにいなくなってたんだっけ?
注6:実際はガソリンに引火すると爆発します。
注7:最近は警察の威信復活をかけた構成になってる気がするが、やはり国家が介入しているのだろうか?
注8:あくまでも端折ってるだけだってば!考えてないなんてこと断じてないよ、ないない(観鈴風に)。
注9:この後のオチから予測してください。っていうか分かれ。

 

〜後書き〜
…と、いうワケで古賀小説A井対抗ショートシナリオ第1弾、“マッチョ売りの少女”です。えっと、かなり謎です。謎電波です(笑)。こんなモノでA井に対抗できるのか?そもそもギャグはKに負けたハズじゃなかったのか?など色々なツッコミを自身に入れながら書きました。いきなり公開せずに先行で数人に送ったらそれなりの反応が得られました。その感想をいくつか抜粋してみましょう。

感想その一:A井君
結局マッチ売りの少女はドラゴンボールを全部集められたの?

謎電波に対し、謎感想で対抗?この時点で俺は勝ちを確信しました(笑)。っていうかマッチョ売りだし。…まぁいい。それで肝心のドラゴンボールについてですが、今回注釈4に書いたとおりこの話は外伝的なもので、本編は全28巻で構成されております。そのうちドラゴンボール編は本編第2部にて綴られてます。結論から言うと、少女はドラゴンボールを集めています。その願いは世界征服でしたが、某氏による妨害を受け、結局手に入れたのはギャルのパンティです。今はそれを装備しています。
ちなみに本編について細かく説明すると、第1部がマッチョに好かれる才を持った少女が神候補を名乗る男に与えられた不思議な力を駆使してバトルを勝ち抜いていく小林先生編。第2部がドラゴンボール編。第3部が女子寮管理人となって色々な騒動に巻き込まれるHAPPYほたる荘編(そっちかよ!/笑)。最終第4部が神秘のお宝を巡って海賊団とバトルを繰り広げるグランドライン編。…あぁ、はいはい。大嘘ですよ!ボケるほうにも限界があるっちゅうねん。そもそも俺はツッコミだと何回言ったら分かるんだ!(逆ギレ)

感想その二:R慧君
なかなか面白かったけどA井のとは比べられん。ジャンルが違いすぎる。漫画でいうと改蔵とコナンくらいかな

久米田ファンとしては物凄い褒め言葉なんですけど、褒められたと受け取っていいんだよね?改蔵とコナンなんて…モロ思惑通りの感想じゃんか(笑)。してやったりですわ。

感想その三:謎人間K
…………(笑)

そういう微妙な笑いを狙って書いたので、ココでもそれなりの好感触だった模様。

とまぁ、それなりに楽しんでもらえたようでなにより。A井あたりは古賀小説の行く末が心配になっただろうけど(笑)。…まぁ大丈夫ですよ。あっちはあっちできちんとマジメに書きますから。神に誓って。俺はこういうシナリオのほうが得意だよ、ってだけの話ですから。一応モノ書きのはしくれとして負けっぱなしはヘコむしね。ちなみに今回の見所はマッチョBの断末魔の叫びでした。

…さて、今回第一弾と称したように、すでにこの企画は次回構想があります。マッチョシリーズなら「宇宙戦艦ヤマッチョ」か「すごいよ!マッチョルさん」の2作が企画段階。童話・御伽噺なら「サルカニ合戦」の合計3作品の構想がありますが…どれも希望者はいないだろうから俺が適当にやってできたら更新、できなきゃそれまで。(無責任)

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